当院の周術期管理
低呼吸機能
■低呼吸機能は肺切除や胸部手術にとって手術の制限となりえる要素です。胸腔鏡手術ではあまり問題となりませんが、開胸手術を要する場合には創部痛が排痰を抑制し、呼吸状態に悪影響を及ぼします。呼吸機能が十分ではないと、術後に無気肺や肺炎などの合併症の可能性が高くなります。リスクの評価には呼吸機能検査と血液ガスまたは経皮的酸素飽和度の測定により行いますが、必要であれば6分間歩行試験を行います。
■当科では入院の1~3週間前に周術期呼吸支援外来を受診して頂き、ビデオやパンフレットを用いて説明を行い、外来時から呼吸トレーニングを開始して頂きます。予定術式と術前の状態に依っては吸入薬などの薬物治療を行います。術前から禁煙をして頂きます。
■開胸手術の術後ではしっかり排痰できるように疼痛対策を重視します。硬膜外麻酔や内服薬、坐薬、点滴などを用いた必要な薬物投与を行います。必要あれば、ミニトラックRなどの吸痰のための侵襲的な処置を行います。
■離床は早い方が合併症の発生が少ないと考えられます。当科では可能な場合、術後4時間時に集中治療室内で歩行を開始します。4時間後歩行が出来ない場合には翌日朝から歩行して頂きます。
糖尿病の管理
■糖尿病の併存は、術後合併症の明らかな危険因子です。肺炎や膿胸などの感染や、創傷治癒不全などを引き起こします。しかし、高血糖への介入が合併症の危険度を低下させるかどうかはあまり明らかではありません。また、感染の合併症には高血糖だけが危険因子ではありません。以上を考慮して血糖コントロールを行います。
■当科ではHbA1c:8程度までの場合、手術2日前に入院し、手術までと術後退院まで血糖値に合わせたインスリン注射の追加(スライディングスケール)を行い血糖値の調整をしていきます。HbA1c:8を超える場合には、1週間程度かそれ以上の期間で術前血糖コントロールを行います。必要であれば糖尿病内科と相談します。
抗血栓薬の管理
■抗血小板薬は中止の可否を循環器内科や脳神経内科と相談します。中止可能な場合で中止期間を短くする場合には、半減期の短い薬剤に変更して2日前に中止し、通常では術後翌日から再開します。中止できない場合には、バイアスピリンに変更して手術当日も内服して手術を行います。
■抗凝固薬に関して、心房細動でもその時点で洞調律であれば一旦中止します。常時心房細動か心臓弁膜症に対する人工弁置換術後などの場合で、抗凝固薬の中止期間を短くする場合には、手術の約1週間前に入院してヘパリン点滴への置換を行い、術後当日または翌日からヘパリンを再開し、翌日から抗凝固薬を再開します。
静脈血栓症の管理
■術後では発生頻度は稀ながら、下肢や肺動脈において血栓症が合併することがあります。一旦発症すれば致死的となる可能性があります。
■院内静脈血栓症対策マニュアルに従って、静脈血栓症のリスク評価を行い、概ね弾性ストッキングや間欠的空気圧迫法などの予防処置を行います。4時間後歩行の後には間欠的空気圧迫法を中止します。
肝疾患の管理
■肝障害がある場合には、創傷治癒不全や出血性の合併症の発生頻度が高くなります。
腎障害の管理
■腎障害がある場合には鎮痛剤や抗生剤などの薬剤の投与に制限があります。それゆえ様々な術後合併症の可能性は高くなります。
■維持透析をされている場合には、集中治療室や透析センターにて周術期の透析を行います。
周術期の支援
■手術が決まれば、周術期呼吸支援外来を受診して頂き、入院前から呼吸のトレーニングを行います。
■統合医療について、情報提供を行っています。統合医療的周術期支援プログラム