関西医科大学iPS・幹細胞再生医学講座

主要な研究テーマの詳細

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1) 人見ユニット: iPS細胞による内分泌細胞再生医療の実現

2) 服部ユニット: iPS細胞による心臓再生医療の高度化

3) 藤岡ユニット: iPS細胞による造血系・免疫系の再構築

3-a) ヒト造血幹細胞の純化と特性の解明

3-b) 新規ヒト白血病幹細胞の同定と抗体療法の開発

1) 人見ユニット: iPS細胞による内分泌細胞再生医療の実現

1-a) エリスロポエチン産生細胞の再生

準備中

主要論文

  • Hitomi H, Kasahara T, Katagiri N, Hoshina A, Mae S, Kotaka M, Toyohara T, Rahman A, Nakano D, Niwa A, Saito M, Nakahata T, Nishiyama A, Osafune K.: Human pluripotent stem cell-derived erythropoietin-producing cells ameliorate renal anemia in mice. Science Translational Medicine 9:409, 2017.

2) 服部ユニット: iPS細胞による心臓再生医療の高度化

2-a) 心筋細胞の再生

準備中

3) 藤岡ユニット: iPS細胞による造血系・免疫系の再構築

3-a) ヒト造血幹細胞の純化と特性の解明

幹細胞(stem cell, SC)とは、自分自身を複製する自己複製能と固有の組織に分化する能力[造血幹細胞(hematopoietic stem cell, HSC)であれば血液細胞に分化する多分化能]を兼ね備えた細胞と定義されている。ヒト及びマウスにおいてin vitro あるいは in vivo で測定可能なHSC/HPC(hematopoietic progenitor cell)について図1に紹介する。

ヒトHSCの階層制(Hierarchy)モデル

図1の左側ほど自己複製能力の大きい未分化な細胞を示しており、右端のCFU-GM, BFU-E, CFU-Megは、各々顆粒球/マクロファージ、赤血球、巨核球/血小板を供給する分化したHPCを示している。ヒトの最も未分化なHSCは、重症免疫不全(NOD/ SCID) マウスを用いるSCID-repopulating cell (SRC) 測定系で同定することができる(図2)。

造血前駆細胞・造血幹細胞の測定法

マウスに関しては、lineage(Lin)陰性、c-kit陽性、Sca-1(Ly-6A/E)陽性、CD34陰性(Lin-c-kit+Sca-1+CD34-, CD34-KSL)細胞が、1個の細胞の移植により致死量の放射線照射を受けたマウスの造血(骨髄球系およびリンパ球系)を再構築することからほぼ純化されたHSCと考えられている。しかしながら、ヒトでは、最近まで最も未分化なHSCはCD34+CD38-SRCと考えられており、CD34陰性(CD34-)HSCは同定されていなかった。

われわれは最近になり、骨髄腔内直接移植(IBMI)法を開発することにより、これまで概念的にPre-SRC(図1)と報告されてきたヒト臍帯血由来CD34- HSCの確実な同定に初めて成功し(図3)、その幹細胞特性や可塑性について詳細な解析を行っている。実験データの解析から、CD34-SRCが、in vitroおよびin vivoでCD34+SRCを産生すること、CD34+SRCに比べてより深いdormancyにあることなどから、従来未分化HSCと考えられてきたCD34+SRCに比べてより未分化なHSCであることが示唆された。

IBMI法による臍帯血由来CD34-HSCの同定

主要論文

  • Wang J, Sonoda Y, et al.: SCID-repopulating cell activity of human cord blood-derived CD34-negative cells assured by intra-bone marrow injection. Blood 101:2924-2931, 2003 (plenary paper).
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  • Kimura T, Sonoda Y, et al.: Proliferative and migratory potentials of human cord blood-derived CD34- severe combined immunodeficiency repopulating cells that retain secondary reconstituting capacity. Int J Hematol 79:328-333, 2004.

次に、ヒトHSCの純化はどこまで進んでいるかについて述べてみたい。マウスに関しては、すでに述べたようにlineage(Lin)陰性、c-kit陽性、Sca-1(Ly-6A/E)陽性、CD34陰性(Lin-c-kit+Sca-1+CD34-, CD34-KSL)細胞が、1個の細胞の移植により致死量の放射線照射を受けたマウスの造血(骨髄球系およびリンパ球系)を300日以上に亘り再構築することからほぼ純化されたHSCと考えられている。

CD34抗原は、長い間HSCの重要なマーカーと信じられてきた。そのため、臨床の場においては免疫磁気ビーズを用いて純化したCD34+細胞を用いる移植が、HLA不一致同種移植の場合のHLAのバリアーの克服や自家移植の場合の腫瘍細胞のpurgingのために用いられてきた。しかし、すでに述べたように、マウスにおいて長期の造血再構築能を示すHSCがCD34抗原を発現していないか、弱く発現している(CD34low/-)であることが示された。その後、ヒトにおいても骨髄あるいは臍帯血中にCD34-SRCの存在することが示唆され、CD34+細胞移植の妥当性(特に、長期の造血再構築能)が再評価されようとしている。臨床の場ではすでに数多くのCD34+細胞移植が実施され、その多くで短期の造血回復が得られている。しかし、免疫磁気ビーズ法では、CD34low/-分画の細胞は失われてしまうため、ここに含まれているCD34- HSCが長期 (life-long) の造血再構築能をもつHSCであると仮定すると、移植後数十年で造血不全となる可能性も考えられる。事実、CD34+細胞移植後の患者でCD34- 細胞分画の幹細胞活性(ex vivo におけるCD34+細胞の産生能で測定)の低下を認めたとする報告がみられる。

また、マウスにおいては骨髄再構築能を示すHSCレベルでCD34抗原のreversionが認められるなど、CD34+/- HSCの階層制は必ずしも明らかでない。また、ヒトにおいてもCD34+あるいはCD34-SRCのheterogeneityが次第に明らかになりつつあり、真にヒトの一生涯の造血を支えるHSCの本体はいまだに明らかにされていない。

われわれは、すでに述べたように、骨髄腔内直接移植(IBMI)法を開発することにより、これまで概念的にPre-SRC(図1)と報告されてきたヒト臍帯血由来CD34- SRCの確実な同定に初めて成功し(図3)、その幹細胞特性について詳細な解析を行っている。これらの実験データの解析から、①CD34-SRCが、in vitroおよびin vivoでCD34+SRCを産生すること、②CD34+SRCに比べてより深いdormancyにあること、③CD34-SRCが、in vivoでCD34+SRCに比べて高い増殖能力を示すことなどから、従来未分化なHSCと考えられてきたCD34+SRCに比べてより未分化なHSCであることが示唆された。われわれは、このCD34-SRCの表面免疫特性に関して詳細な検討を加え、最近その免疫特性がLin-CD34-c-kit-flt3-であることを明らかにしている(図4)。Flt3の発現に関しては、長期骨髄再構築能をもつマウスCD34-KSL細胞も発現しておらず、flt3の発現とともにリンパ球・顆粒球系への分化能を示すHSC(赤血球系、巨核球系細胞への分化能を失う)に分化することが報告されている。このように、ヒトとマウスの最も未分化と考えられるHSCの表面免疫特性は、c-kitの発現を除くと一致している。また、CD34-SRCは、マウスストローマ細胞(HESS-5)との共培養系でCD34+flt3+/- SRCsを産生することも確認している。このこともCD34-SRCがCD34+SRCに比べてより未分化なHSCであることを示唆していると考えられる。

従来、ヒトの最も未分化なHSCは、CD34+CD38-SRCであることが報告されていた。そこで、最近われわれは、CD34-SRCsとCD34+CD38+/-SRCsの幹細胞特性について、各々のin vivo増殖分化動態について比較検討した。初めに、これら3つのSRCsの臍帯血由来の各細胞分画中の頻度について限界希釈法で検討した。その結果、CD34+CD38+SRCが1/6,000、CD34+CD38-SRCが1/40、CD34-SRCが1/25,000であることが明らかになった。次に、限界希釈法のデータに基づいて2~3個のCD34+CD38+SRC、5個のCD34+CD38-SRC、さらに2~3個のCD34-SRCを各々NOD/SCIDマウスにIBMI法で移植し、ヒトの造血の再構築パターンについてin vivoで解析した。その結果、①CD34+CD38+SRCは移植後早期(2週目以降)に移植部位より他の骨に遊走して生着すること、②CD34+CD38-SRCは、CD34+CD38+SRCよりも遅れて遊走を開始すること、③CD34-SRCは5週後以降に最も遅れて遊走を開始することが明らかになった。さらに、これら3つのクラスのSRCsをNOGマウスにIBMI法で移植して6ヵ月間ヒト造血再構築パターンについて解析した。その結果、①CD34+CD38+SRCは、移植後12週目以降に生着率が有意に低下すること、②CD34+CD38-SRCとCD34-SRCは、共に移植後6ヵ月間ヒトの造血を維持することが明らかにされた。以上より、CD34+CD38+SRCは短期の造血再構築能を持ったSRC (short-term repopulating HSC)であり、一方、CD34+CD38-SRCとCD34-SRCは、共に長期造血再構築能を持った(より大きな自己複製能を持つ)LTR-HSCであることが明らかにされた。

ヒトCD34-HSCの本体の解明には、HSCの純化が不可欠である。我々が、最初にIBMI法でヒト臍帯血中にCD34-SRC(HSC)の同定に成功した時の13Lin-CD34-細胞分画中のCD34-SRCの頻度は、1/25,000であり、CD34+CD38-SRCの1/40に比べると非常に低いものであった。我々は、最近、18種類のlineage抗体を用いるnegative selection法を開発し、18Lin-CD34-細胞分画中にCD34-SRCを1/1,000の頻度にまで濃縮純化することに成功している。この18Lin-CD34-細胞分画を用いてHSCの陽性分子マーカーについて網羅的な解析を行い、最近、CD133がヒト臍帯血由来CD34-SRCの陽性分子マーカーであることを初めて明らかにした。限界希釈法によりその頻度を計算すると、約1/140と非常に高度に濃縮純化されることが明らかになった。また、CD133は、ヒト臍帯血由来CD34+SRCの陽性マーカーでもあることが示された。このことは、臍帯血移植において、従来用いられていたCD34+細胞数ではなく、CD133+細胞数をHSC活性の指標とすることが望ましいことを示唆している。

以上の研究成果に基づいて、ヒトHSCの新しい階層制モデル(図5)を提唱したい。

ヒトHSCの新しい階層制モデル

主要論文

  • Kimura T, Matsuoka Y, Murakami M, Kimura T, Takahashi M, Nakamoto T, Yasuda K, Matsui K, Kobayashi K, Imai S, Asano H, Nakatsuka R, Uemura Y, Sasaki Y, Sonoda Y. In vivo dynamics of human cord blood-derived CD34- SCID-repopulating cells using intra-bone marrow injection. Leukemia 2010;24:162-168.
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  • Ishii M, Matsuoka Y, Sasaki Y, Nakatsuka R, Takahashi M, Nakamoto T, Yasuda K, Matsui K, Asano H, Uemura Y, Tsuji T, Fukuhara S, Sonoda Y. Development of a high-resolution purification method for precise functional characterization of primitive human cord blood-derived CD34-negative SCID-repopulating cells. Exp Hematol 2011;39:203-213.
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  • Takahashi M, Matsuoka Y, Sumide K, Nakatsuka R, Fujioka T, Kohno H, Sasaki Y, Matsui K, Asano H, Kaneko K, Sonoda Y. CD133 is a Positive Marker for a Distinct Class of Primitive Human Cord Blood-derived CD34–negative Hematopoietic Stem Cells. Leukemia 2014;28:1308-1315.
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  • Matsuoka Y, Nakatsuka R, Sumide K, Kawamura H, Takahashi M, Fujioka T, Uemura Y, Asano H, Sasaki Y, Inoue M, Ogawa H, Takahashi T, Hino M, Sonoda Y: Prospectively isolated human bone marrow cell-derived MSCs support primitive human CD34-negative hematopoietic stem cells. Stem Cells 33:1554-1565, 2015.
  • Matsuoka Y, Sumide K, Kawamura H, Nakatsuka R, Fujioka T, Sasaki Y, Sonoda Y: Human cord blood-derived CD34-negative hematopoietic stem cells (HSCs) are myeloid-biased long-term repopulating HSCs. Blood Cance J , 5:e290;doi:10.1038/bcj. 2015.
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  • Nakatsuka R, Matsuoka Y, Uemura Y, Sumide K., Iwaki R, Takahashi M, Fujioka T, Sasaki Y, Sonoda Y. Mouse dental pulp stem cells support human umbilical cord blood-derived hematopoietic stem/progenitor cells in vitro. Cell Transplant 24:97-113, 2015.
  • Matsuoka Y, Sumide K, Kawamura H, Nakatsuka R, Fujioka T, Sonoda Y: GPI-80 expression highly purifies human cord blood-derived primitive CD34-negative hematopoietic stem cells. Blood 128(18):2258-2260, 2016.
  • Sonoda Y: Human Hematopoietic Stem Cells: The Current Understanding and Future Prospects. Journal of Hematopoietic Cell Transplantation 6(2):70-83, 2017.
  • Matsuoka Y, Takahashi M, Sumide K, Kawamura H, Nakatsuka R, Fujioka T, Sonoda Y: CD34 Antigen and the MPL Receptor Expression Defines A Novel Class Of Human Cord Blood-Derived Primitive Hematopoietic Stem Cells. Cell Transplant 26(6):1043-1058,2017.

3-b) 新規白血病幹細胞の同定と抗体療法の開発

白血病に対する根治術として造血幹細胞移植が行われ、移植方法や移植前後の支持療法の進歩に伴い治療成績は向上しています。しかしながら、再発例も多く、白血病は未だ治癒が非常に困難な疾患であることには変わりがありません

患者体内の白血病細胞は、正常造血における造血幹細胞と同様に、ごく少数しか存在しない白血病幹細胞が供給しています(図6)。この白血病幹細胞は化学療法に対して強い抵抗性を持ち、治療後も体内に残存して再発の原因になります。私たちは正常造血幹細胞に関する研究実績を基盤として、新規の白血病幹細胞(LSC)を同定し、LSCを標的とする新しい治療法の開発を行っています。

新規白血病幹細胞の同定と抗体療法の開発