親子鑑定と父権肯定確率

Parentage Test and Probability of Paternity Likelihood


○親子鑑定 Paretage test

メンデル遺伝の法則に従う遺伝形質 (血液型、DNA多型) を検査。
→生物学的親子 (血縁) 関係の有無を判定する (子は両親の持つ2組ずつの遺伝子の1組ずつを受け継ぐ)。
※共通の遺伝子を持たなければ親子でない!

母子の型の比較から子の父由来遺伝子を識別。
→父と擬せられている男性 (擬父) が子の父由来遺伝子をもつか否かで判定。

母がいない場合は父子を直接比較→精度が落ちる。

親子鑑定の問題点・注意点
  1. 鑑定依頼の受付、資料の採取
    ・鑑定結果により離婚、嫡出子否認など家族関係に大きな影響。
    ・検査結果 (遺伝情報) は被験者本人だけでなく、血縁者の個人情報。
    →検査の適否の判断、情報管理 (守秘) が重要。

    *家庭裁判所、弁護士からの依頼は受け付け、個人からは受けない。
    *被験者本人であるか確認できるようにする (被験者の顔を撮影する)。
    *関係者が鑑定に同意しているか確認する (同意書の有無を確認する)。

  2. 判定:減数分裂時の突然変異がまれに起こることに留意。
    *1種類の遺伝形質で矛盾 (孤立否定)→突然変異の可能性を考慮し、検査対象 (遺伝形質の種類) を増やして分析を継続する。
    *複数の遺伝形質で矛盾→親子関係の否定
    *多数の遺伝形質で矛盾しない→父権肯定確率を計算し、目安にして肯定とする (100%確実な肯定は理論上不可能)。

  3. 父権肯定確率
    Essen-Möllerの式 (下記) に基づいて計算できる (詳細は省略)。
    W=1/(1+Y/X)
    W:肯定確率、Y:集団中における擬父の遺伝形質の型 (血液型、DNA型) の頻度、
    X:母子の遺伝形質の型の組合せから判定される真の父と考えて矛盾のない集団中における擬父の遺伝形質の型の頻度。
    Y/X:父権尤度比。ただしDNA鑑定の導入によりY/Xが極めて小さい値となり、表現しづらくなったこと、Wが極めて1に近くなると同時に、事前確率を考慮する必要が生じて計算が面倒になったことから、現在では尤度比 X/Y を用いて評価するようになった。

◎父権肯定確率計算のアルゴリズム (共通方程式)
参考文献:日本法医学雑誌 46: 254-265, 1992., DNA多型 10: 120-123, 2002.

母、子、擬父の遺伝子型をPQ、RS、TU、その対立遺伝子をP、Q、R、S、T、U、対立遺伝子頻度をp、q、r、s、t、uとして、

F(PQ)=[1−(P≠Q)]×p×q
Z(RS)=[1−(R=S)]
K(PQ,RS)=-1/2{[(R=P)+(R=Q)]×s+[(S=P)+(S=Q)]×r}×F(PQ)÷Z(RS)
H(PQ,RS,TU)=1/4{[(R=P)+(R=Q)]×[(S=T)+(S=U)]+[(S=P)+(S=Q)]×[(R=T)+(R=U)]}×F(PQ)×F(TU)÷Z(RS)

という4関数を設ける (かっこ内の等式、不等式は、その式が正しければ−1、誤りであれば0を返す関係演算式)。

母、子、擬父の遺伝子型[PQ]i、[RS]j、[TU]kがそれぞれl、m、n通りずつ考えられる場合、

n l m
Y=Σ F([TU]k)、Kl,m ΣΣ K([PQ]i, [RS]j)
k=1 i=1 j=1
l m n
Hl,m,nΣ ΣΣ H([PQ]i, [RS]j, [TU]k)
i=1 j=1 k=1

となり、父権尤度比 Y/X=Y×Kl,m÷Hl,m,n、父権肯定確率 W=1/(1+Y/X) で求められる。

父子鑑定に用いる遺伝形質が性染色体遺伝子である場合は、全ての対立遺伝子の頻度を 0.5 倍し、さらに頻度 0.5 のダミー遺伝子(X染色体遺伝子の場合はYダミー、Y染色体遺伝子の場合はXダミー)を設け、性別にあわせてダミーを含めた対立遺伝子を選択するようにすると、全く同じ計算式で正確に父権肯定確率を計算できるようになる (ただしY染色体遺伝子は全体でハプロタイプという遺伝子型の組み合わせを構成し、そのまま父から男児へ遺伝されるので、個々のY染色体遺伝子の結果から肯定確率を計算して総合することはできない。どれか1種類だけの計算結果を用いる)。

母子鑑定に用いる遺伝形質がX染色体遺伝子である場合は、子の持つ母由来遺伝子が必ず特定できる。従って頻度 1 のYダミー遺伝子を設けておけば、対立遺伝子頻度を操作せずにそのまま計算できる。ただし、子が男児で、かつ父と子の持つX染色体遺伝子の型が同じ場合には、この計算式では父から子へYが遺伝したのかXが遺伝したのかを判定することができない (本当は男児のX染色体遺伝子は母由来以外の何者でもない)。この計算式をそのまま流用しようとすれば、頻度 1 のXダミー遺伝子を設け、父の遺伝子型としてYダミー/Xダミーのヘテロ接合体を選択しなくてはならない (母権肯定確率・否定確率計算ページ では自動的にXダミーに置き換える)。

母子鑑定に用いる遺伝形質がミトコンドリアDNA多型である場合は、子の型は真の母の型と同一だから、全ての対立遺伝子の頻度を 0.5 倍し、さらに頻度 0.5 のダミー遺伝子を設け、父の型がダミーのホモ接合体、子と擬母がミトコンドリアDNAの型とダミーのヘテロ接合体とすれば、この計算式でそのまま計算できる。


◎父権否定確率・平均排除率 (MEC) 計算のアルゴリズム (共通方程式)
参考文献:DNA多型 10: 120-123, 2002.

父権否定確率は「実際に鑑定する母子の遺伝形質の型の組合せで、赤の他人である擬父がうまく否定される確率」のことで、各鑑定事例でのその遺伝形質の検査結果の有効性を示す。一方、平均排除率とは「全ての母子の遺伝形質の型の組合せで、赤の他人である擬父がうまく否定される確率の総和」のことで、その遺伝形質の全般的な有効性の指標となる。

父権否定確率 P(PQ,RS) は (子の父由来遺伝子を持たない型の頻度の総和) になるので、

R(PQ,RS)=-{[(R=P)+(R=Q)]×s+[(S=P)+(S=Q)]×r}÷Z(PQ)÷Z(RS)

という父由来遺伝子の頻度を求める関数を設けると、

P(PQ,RS)=[1−R(PQ,RS)]2

で計算できる。

平均排除率 P は、 (母子結合確率) × (子の父由来遺伝子を持たない型の頻度) の総和になるので、
l m l m
P=ΣΣ K([PQ]i, [RS]j)×P([PQ]i, [RS]j)=ΣΣ K([PQ]i, [RS]j)×{(1−R([PQ]i, [RS]j)2}
i=1 j=1 i=1 j=1

で計算できる。要するに父権肯定確率計算のプログラムを流用できるということ。

父子鑑定に用いる遺伝形質がX染色体遺伝子である場合は、父から子(女児)へ遺伝されるX遺伝子は1個しかない(他の1個はY染色体)ので、計算式が少し変わり、

P(PQ,RS)=1−R(PQ,RS)

l m l m
P=ΣΣ K([PQ]i, [RS]j)×P([PQ]i, [RS]j)=ΣΣ K([PQ]i, [RS]j)×(1−R([PQ]i, [RS]j)
i=1 j=1 i=1 j=1

となる (父権肯定確率計算用に対立遺伝子頻度を 0.5 倍している場合は、もとに戻しておかなければならない)。

父子鑑定に用いる遺伝形質がY染色体遺伝子である場合は、父と子(男児)のY遺伝子を比較することになり、母子関係が成立する場合は計算に母の型は全く関係なくなる。Xダミーを設けておけば父由来のY遺伝子 (R, 頻度 r) が R(PQ,RS) 式で判定でき、擬父はY遺伝子を1個しか持たないので、

P(PQ,RS)=1−R(PQ,RS)=1−r

l m l m m
P=ΣΣ R([PQ]i, [RS]j)×P([PQ]i, [RS]j)=ΣΣ R([PQ]i, [RS]j)×(1−R([PQ]i, [RS]j)= Σrj(1−rj)
i=1 j=1 i=1 j=1 j=1

となる (父権肯定確率計算用に対立遺伝子頻度を 0.5 倍している場合は、もとに戻しておかなければならない)。ただし母の持つ対立遺伝子のPとQの両方と、子の持つ対立遺伝子のRとSのいずれかはXダミーとなる。

母子鑑定に用いる遺伝形質がX染色体遺伝子やミトコンドリアDNA多型である場合は、いずれも子の母由来遺伝子 (R, 頻度 r) は必ずひとつに特定できる。従ってY染色体遺伝子による父子鑑定の時と同様になる。

母の遺伝子型は、X染色体遺伝子の場合は2個の対立遺伝子で構成されるので、

P(TU,RS)=[1−R(TU,RS)]2=(1−r)2

m n m n m
P=ΣΣ R([TU]k, [RS]j)×P([TU]k, [RS]j)=ΣΣ R([TU]k, [RS]j)×{1−R([TU]k, [RS]j)}2 Σrj(1−rj)2
j=1 k=1 j=1 k=1 j=1

となる。ただし父の持つ対立遺伝子のTとUのいずれかはYダミーとなる。また、父権肯定確率の時と同じく、子が男児で、かつ父と子の持つX染色体遺伝子の型が同じ場合は、R(TU,RS) 式では父から子へYが遺伝したのかXが遺伝したのかを判定することができない (本当は男児のX染色体遺伝子は母由来以外の何者でもない)。この計算式をそのまま流用しようとすれば、頻度 1 のXダミー遺伝子を設け、父の遺伝子型としてYダミー/Xダミーのヘテロ接合体を選択しなくてはならない (母権肯定確率・否定確率計算ページ では自動的にXダミーに置き換える)。

一方ミトコンドリアDNA多型は通常1種類の遺伝子からなるので、

P(TU,RS)=1−R(TU,RS)=1−r

m n m n m
P=ΣΣ R([TU]k, [RS]j)×P([TU]k, [RS]j)= ΣΣ R([TU]k, [RS]j)×{1−R([TU]k, [RS]j)}= Σrj(1−rj)
j=1 k=1 j=1 k=1 j=1

となる (rjはミトコンドリアDNA型の頻度。母権肯定確率計算用に遺伝子頻度を 0.5 倍している場合は、もとに戻しておかなければならない)。ただし父の持つ対立遺伝子のTとUの両方と、子の持つ対立遺伝子のSはダミーにしておく。


○父権肯定確率・否定確率計算 Probability of Paternity Likelihood & Exclusion

実際に親子鑑定を行った結果から、上記のアルゴリズムに基づいて父権肯定確率・父権否定確率を計算する。計算はJavaScriptで行っている。

ページをいったんロードしたら、インターネットの接続を切ってもかまわない (検査データは使用者のパソコン内のみで処理され、当方へ送られることはない)。

各種血液型・DNA型用 父権肯定確率・否定確率計算
 母の型が未検査でも計算可能。オリジナルデータ (X染色体多型、Y染色体多型を含む) の登録が可能。

STR用 父権肯定確率 (尤度比) 計算
 STR、Y-STR、X-STR専用。母の型が未検査でも計算可能。

各種血液型・DNA型用 母権肯定確率・否定確率計算
 父の型が未検査でも計算可能。オリジナルデータ (X染色体多型、ミトコンドリアDNA型を含む) の登録が可能。

STR用 母権肯定確率 (尤度比) 計算
 STR、X-STR専用。父の型が未検査でも計算可能。

死亡事例用 (擬父や子が死亡している場合に血縁者から型を推定できる拡張版)

研究者の方へ:本プログラムの使用によって発生した実害については、当方との共同研究でない限り責任は持てないので、その旨あらかじめ了承されること。


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