Dr.西山の渡航外来よもやま話

 

第6回 狂犬病ってどんな病気?

 狂犬病は渡航者病の中で、最も気をつけなければならない疾患の一つです。それは、狂犬病が一度発症してしまうと、根本的に治療する方法がまだ見つかっておらず、死の転帰をたどる(要は%ほぼ100%死に至る)からです。病原体は狂犬病ウイルスで、狂犬病に罹患しているほ乳類(イヌ、ネコ、コウモリなど)に咬まれ感染が成立します。この疾患の潜伏期は、一般に2週間〜数ヶ月といわれ、狂犬病に罹ったほ乳類に咬まれた部位が中枢神経から遠い場合は(足の先や手の先など)では長く、また近ければ短い傾向にあるといわれています。症状は初期は通常の感冒様症状から始まり、次に咬傷の亜あった部位のかゆみやしびれ感などの知覚異常が出現し、次に不安感、恐水症(水を飲もうとしても、咽頭の疼痛で飲めない状態)、興奮、麻痺、錯乱など脳炎症状が出現しやがて死に至ります。

 分布は、我が国、イギリス、ニュージーランド、オーストラリア、スカンジナビア半島などの一部の島国や半島の尖端の国々をのぞくほぼ世界中に存在し、我が国の渡航者が多い、インド、タイ、フィリピン、中国、アフリカの諸国などでも多くの症例がみられます。特にインドでは年間2〜3万人の発症がみられ、大流行地と考えられます。我が国で、2006年に発生した輸入狂犬病症例2例は、いずれもフィリピンでイヌから咬傷を受け、発症したものです。中国においても近年経済の発展とともに、生活に余裕のある人たちがペットとしてイヌを飼う場合が多く、それに伴い狂犬病発症数が増加し、年間2000〜3000人もの人が死亡しているといわれております。

 治療は、先ほど述べた通り、一度合唱すればほぼ100%死に至ることから、発症予防が唯一の治療です。予防接種の仕方は曝露前免疫と曝露後免疫の2種類があります。また、接種方法もいろいろなやり方がありますが、私が日常臨床の場で行っている方法を記載しておきます。


1)曝露前免疫(狂犬病流行国に行く前に行う予防接種):

WHOやCDCが推奨している方法

初回接種後、2回目を7日後、3回目を21〜28日目に、計3回の接種を行います。

本邦製狂犬病ワクチンの場合

使用説明添付文書に記載されている方法

初回接種後、2回目を1ヶ月後、3回目を6〜12ヶ月後に計3回接種を行います。


コメント:本邦製狂犬病ワクチンをWHOやCDCの推奨する方法で使用した場合も、この製剤は十分な抗原量と力価を備えていると考えるので、十分対応できると思います。ただし、本邦製狂犬病ワクチンは使用している狂犬病ウイルス株の増殖能力に限界があり、年々製造量が減少し、曝露前免疫に使用できる製造量が確保されておらず、狂犬病予防という観点から大きな問題があると思っています。厚生労働省に輸入狂犬病ワクチンを認可していただき、我が国の海外渡航者が、もっと自由に曝露前免疫ができる様になり、今後、我が国から海外に渡航し狂犬病に罹患して死亡する人がでないように、心から願っております。



2)曝露後免疫(狂犬病に罹患している動物に咬まれたり、傷口をなめられたりした場合に行う予防接種)

a)曝露前免疫を行っている場合

 咬傷を受けたあと、速やかに1回目を、3日後に2回目と、少なくとも2回以上の予防接種を行います。

b)曝露前免疫を行っていない場合

 咬傷を受けた後、速やかに1回目のワクチン接種と抗狂犬病ガンマグロブリン5mlの接種を、その後3日目、7日目、14日目、30日目、90日目の計6回の予防接種を行います(近年、WHOやCDCでは、曝露後のワクチン接種回数は4〜5回に減ってきていますが、私は人の命に関わりますので、できるだけ多い回数をおこなっています)。


コメント:現在我が国では、抗狂犬病ガンマグロブリンの入手が困難で、保有している医療機関はほぼ無いと思われます。従って、邦人が渡航先で狂犬病罹患動物に咬傷を受けた場合、WHOやCDCの推奨している狂犬病曝露後免疫プログラムを行うことができないのが現状です。人の命に関わることなので、なんとか整備されることを望んでいます。


         文責:海外渡航者医療センターセンター長 西山利正




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