心療内科学の過去、現在、未来

 心療内科学講座は2000年に単独講座として開講、関西医大では比較的若い講座です。初代中井吉英教授のあとをつぎ、2009年より私が第二代教授に就任いたしました。開講に先立つ1994年に附属滝井病院(現関西医大医療センター)に心療内科が診療科として開設され、2010年には附属枚方病院(現関西大附属病院)に移動。2011年には総合診療科が心療内科学講座内にもうひとつの診療科として位置付けられました。
 心療内科学とは内科系講座の一つであり、内科疾患のうちストレスなどの心理社会的な因子が濃厚に関与する病態を対象に、診療、研究、教育を行います。対象となる病態は臓器別ではないので、幅広く内科疾患が対象になります。その点では総合診療という近代的診療概念と重なっています。
 診療科としての心療内科と総合診療科の違いは、病態の把握や治療アプローチにおける比重がより心理社会面にあるか身体面にあるかという点です。しかしながら、これらは比重の問題であり、いずれもが従来の身体医学に加えて心理、社会面も考慮すること、臓器別ではなく幅広い領域を対象にすることなどでは同じですので、教育、研究面では同じ講座となっているのです。
 このようなコンセプトで統合された講座は、心身医学の先進国ドイツ、そのまた中心であるハイデルベルグ大学にDept. of Psychosomatic and General Clinical Medicineとして存在しますが、世界的にも希少で先進的な構造の講座です。我々も西のハイデルベルグとなるべく臨床、教育、研究に精進したいと考えています。
 初代の中井吉英先生の大好きな人物の一人が良寛さんです。中でも良寛と貞心尼の晩年の恋について、しばしば熱心に語っておられました。恋もですが、良寛は村の子供たちと一緒になり、子供のように遊ぶのを楽しんだと伝えられています。私はこの「遊」という言葉に強く惹かれます。「遊」をどのように解釈するか、それは個々人の自由です。含みの多い言葉で、構造物のわずかの隙間も「あそび」と言います。その「あそび」は、少しだけ自由に動けることで構造全体のしなりを引き出し、大きなゆがみに耐えることができるようにします。我々の講座もしなやかに楽しく、そして、病院、大学を、また医療全体のしなりを引き出す存在でありたいと思います。