研究紹介

◆ 我々の疼痛研究でわかったこと

 我々が作製したノックアウトマウスだけでなく国内外の多くの研究室で作製されたノックアウトマウスに神経因性疼痛モデルを作製し、脊髄での神経因性疼痛の発生維持機構を体系的に解析した。 その結果、図に示すように、@膜型プロスタグランジンE合成酵素 (mPGES)-1により産生されたPGE2がシナプス終末のPGE受容体EP1に作用してグルタミン酸遊離を促進すること、Aグルタミン酸NMDA受容体NR2BサブユニットのY1472がSrcキナーゼファミリーの1種Fynにより、リン酸化され、NMDA受容体が活性化されること、 BDRGで発現誘導されたpituitary adenylate cyclase-activating polypeptide (PACAP)はグルタミン酸と相乗的にnNOSの細胞膜へのトランスロケーションを促進すること、CNR2BサブユニットのY1472のリン酸化によるチャネル活性の増大はCaMKIIのT286のリン酸化により下流のシグナル伝達の活性化を引き起こすことを明らかにしつつある。これらの結果から、海馬で見られる記憶・学習等の長期増強と同様のシナプスの可塑性により神経因性疼痛が維持されている可能性が示唆された。D炎症性疼痛モデルではAMPA受容体サブユニットスイッチによりCa2+透過性となるなど末梢組織からのインパルスによりシナプス上のグルタミン酸受容体複合体の構成分子がダイナミックに集散離合してシナプスの伝達効率を調節している。 さらに、シナプスの可塑的変化だけでなく、痛覚伝達の一次中継地の脊髄後角で産生されるPG、NO、ATPが細胞間生理活性物質としてニューロン-グリア間の相互作用に関与することがわかりつつある。痛みの研究は分子レベルから個体動物の行動まで体系的に神経の可塑性変化を長期間解析できる特長があり、反応の場である脊髄後角での細胞の応答、細胞間相互作用や物質の流れを多光子励起顕微鏡や質量顕微鏡など最新の機器で解析を進めている。

研究テーマ


最近の論文…

☆1. NMDA受容体NR2BサブユニットY1472のリン酸化の二つの役割
☆2. nNOSのトランスロケーションによるPACAPとNMDAのsynergism
☆3. NOの二つの作用機構
☆4. 炎症性疼痛に伴うAMPA受容体GluRのサブユニットスイッチ
☆5. PGE2は脊髄表層 PGFは脊髄深層でアロディニアを誘発する
☆6. 末梢神経再生モデルの確立
☆7. シナプスのE3ユビキチンリガーゼSCRAPPERによる神経伝達調節