疼痛研究の最前線

◆ 痛みの伝達経路と慢性痛の発生・維持機構

 熱、機械的な侵害刺激は自由神経終末の侵害受容器を活性化し、一次求心性線維を介して脊髄後角の二次ニューロンに伝達される。閾値を越えると大脳皮質で痛覚として認識されるが、反射など侵害刺激からの逃避や除去とともに、痛みは消失する。 このような急性痛は、外傷や病気に対する生体防御のための有用な警告反応であるが、関節リウマチに伴う炎症性疼痛や帯状疱疹後神経痛にみられる神経因性疼痛などの慢性痛はそれ自体が有害な病態で、機能障害を引き起こす。
 慢性疼痛では、1)発症部位で産生されるさまざまな化学物質(炎症性スープ)が痛覚感作物質として、 浸潤細胞から遊離されるTNF-αなどの炎症性サイトカインは液性因子として、侵害受容器の疼痛閾値を低下させる(末梢性感作)。2)末梢組織から遊離される神経成長因子(NGF)は自由神経終末に取り込まれ、一次求心性線維を通って後根神経節(DRG)に輸送されてその形質転換に関与する。 末梢組織からの持続的な異常入力は、3)脊髄後角での二次ニューロンの興奮性の変化(中枢性感作)を引き起こす。炎症部位での虚血や局所的体温上昇により自発痛や痛覚過敏反応、神経損傷では触覚刺激で疼痛(アロディニア)を誘発するようになるが、1)〜3)の寄与の割合は疼痛の発生原因だけでなく、慢性疼痛の時間経過とともに変化する。 例えば高齢者に多い帯状疱疹後神経痛では帯状疱疹時には、皮膚の発疹に由来する末梢性感作、その治癒後に残るアロディニアは中枢性感作が関与する。これまで、神経因性疼痛は触覚刺激を伝える神経線維の発芽により脊髄で疼痛伝達経路との間の神経回路網の形成や細胞死による抑制性神経伝達のなど器質的変化が生じ難治性と考えられてきた。我々を含めた最近の研究から、神経因性疼痛の維持でも、炎症性疼痛と同様、プロスタグランジン(PG)、一酸化窒素(NO)やATPが深く関与し、侵害受容器や受容体チャネルのリン酸化、トランスロケーションや遺伝子の発現誘導、ミクログリアの活性化という機能的(神経可塑的)変化により維持されていることがわかってきた。
 最近、関節リウマチのような慢性炎症性疾患にはPGの産生を抑制する抗炎症薬COX-2阻害薬や抗TNF抗体、血管収縮による片頭痛にはトリプタン製剤など有効な治療薬が開発される一方、神経再生手術によりカウザルギー (CRPS II) の激痛が消失したことが報告された(本講座非常勤講師 稲田有史博士)。長年神経因性疼痛に苦しめられていた患者が手術で治療できることは、その少なくとも一部は機能的変化により持続されていることを示している。 医化学講座では、このような慢性疼痛に対する基礎研究、特に神経因性疼痛の発生・維持機構の解明をメインテーマとして、幅広いアプローチで基礎研究を行い、さらにトランスレーショナル研究を推進し、基礎研究の成果を治療に役立てたいと考えている。

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