法医学講義 死の定義・判定、脳死
Diagnosis of Death / Brain Death
生→死…連続的:死の判定はそれに1点を区切ること=困難
→医師の裁量に任されていた。
死の定義:生存に最も重要な心 (循環)、肺 (呼吸)、脳 (中枢) 機能の不可逆的停止で判断
=心停止、自発呼吸停止、瞳孔散大
三臓器死説:三臓器全ての機能停止が必須。
単独臓器死説:三臓器のいずれかの機能停止が起こった時点を死とする。
日本では従来より特に心停止を重視。
しかし生命維持装置の発達により心臓が停止していても生きられる。
→代用脳のない現在、脳の死を人の死とする考えが一般化しつつある。
<脳 死> 生命倫理学資料の頁を参照。
- 定義
脳幹を含む全脳機能の不可逆的停止 (植物人間:大脳皮質のみの死)
通常の脳死→すみやかに呼吸・循環が停止
∴脳死とは医療機関で人工呼吸器使用時だけに認められる特殊な状態。
多くの国で脳死を個体死としている。
- 脳死判定
深昏睡、瞳孔散大、脳幹反射の消失、脳波の平坦化、自発呼吸停止を確認。
(6時間の経過を見て再確認)
[6歳未満は除外。
薬物中毒、低体温、代謝・内分泌障害は脳死類似状態になるので除外]
→しかしこれだけで本当に脳幹機能の停止まで確認できているか?
→関西医科大学で鼻腔誘導脳波分析法による脳幹機能の検査方法を確立→研究紹介
- 臓器移植との関連
酸素不足に強い腎臓:心停止から摘出までの時間は60分が限度。
酸素不足に弱い心臓、肝臓:脳死段階で摘出する必要あり。
次善策:生体肝移植 (平成元年11月、島根医科大学が日本初)
→健康者の肝の摘出は医療の範囲内か、違法行為かという問題も提起。
いずれにせよ生体から心移植は不可能。
- 臓器の移植に関する法律(臓器移植法):平成9年10月16日施行
限定脳死説:本人の同意があり、臓器移植が適正に行われた場合に限り脳死を人の死とする。
条件・本人の生前の文書での意思表示
・摘出時の家族の同意
・15歳以上に限定
・実施施設の限定:臓器摘出は92施設 (現在は329施設に増加)
心臓移植は阪大、国立循環器病センター、東京女子医大 (計3施設)
肝臓移植は京大、信州大 (現在は9施設に増加)
肺は4施設、膵臓は13施設、小腸は9施設、腎臓は176施設が指定
角膜及び腎臓の移植に関する法律はこれにより廃止
※ドナーカードの普及の遅れ。臓器摘出や移植できる病院が指定。
→脳死患者からの臓器摘出がなかなか実行できない。
※平成11年2月28日、高知赤十字病院で国内初の脳死者からの臓器摘出。
→阪大で心臓移植、信州大で肝臓移植が実施。
- 異状死体からの臓器移植
- 異状死体:以下の場合の死体をいう。
○外因死 (病死以外)。
○死因不詳。
○死亡前後の状況に不審。
→検視 (死体検案) が必要。
- 臓器移植:障害がなく健常な臓器を移植
→世界的に臓器提供者として交通事故被害者 (外因死) が多い。
- 日本の異状死体からの臓器移植
- 従来
- 角膜及び腎臓の移植に関する法律第4条:
変死体からの臓器摘出を禁止
→事件の究明に支障を来たさないため
- 司法当局は脳死を死として取り扱っていなかったので、心停止後検視
→時間がかかり、酸素不足に強い腎臓さえも移植不可能。
※平成5年10月22日
喘息発作による脳死者からの肝移植を千里救命センターで検討
(異状死体でないので検視不要)
→大阪府が中止を要請→心停止後に臓器摘出 (九大)
平成6年10月1日
「脳死立法に反対する関西市民の会」が、「脳死状態で肝臓摘出の準備を行い心停止に至らせた」と殺人と死体損壊の疑いで告発
平成8年10月23日
死体損壊は不起訴
平成10年3月31日
臓器移植法の限定脳死説に基づき、殺人を不起訴
- 現在
検視後であれば臓器摘出可 (法医解剖が必要な場合は不可)。
→そのためには脳死判定前から司法解剖の要否を判断し、 脳死判定 (6時間の間隔をおいて2回行われる) 後、すみやかに検視を実施。
∴警察と病院の密接な連絡が不可欠。法医学者の立会も必要?
※平成11年6月14日、宮城県の古川市立病院で国内初の交通事故による脳死者からの臓器摘出 (脳死臓器移植では国内3例目)。
:2回目の脳死判定後、検視を行ってから摘出。
→国立循環器病センターで心臓移植、京大で小児に部分肝臓移植を実施。
- 臓器移植法改正の動き
町野 朔教授(上智大学法学部)は厚生省科学研究費助成研究『臓器移植の法的事項に関する研究 ―特に「小児臓器移植」に向けての法改正のあり方―』で以下の改正を伴う最終案を厚生省に提出(平成12年8月22日)
- 臓器移植の可否にかかわらず、脳死を人の死と定義。
- 生前に反対意思を表明していなければ、ドナーカード不所持でも遺族の承諾で臓器摘出可。
- 親権者の承諾があれば15歳未満の小児からの臓器摘出も可。
この案に対しいろいろな議論が起こっている。