法医学講座 研究紹介
Researches in Department of Legal Medicine,
Kansai Medical University


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 ここに紹介するのは、関西医科大学70周年記念研究活動報告集で紹介したものを中心とする法医学講座の研究内容の一部である。なお関連論文は、総説を除いては英文論文のみを提示した。

内容:DNA鑑定薬毒物分析脳死

  1. DNA鑑定に関する基礎的研究 (担当:赤根 敦)→DNA鑑定

    ○法医学試料中DNAの性状

     犯罪捜査でDNA鑑定に用いられる血痕等は、現場に放置されて汚染や分解が生じており、しばしばポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) 法によるDNA解析が阻害される。そこで汚染物質が血中のヘモグロビンなどから誘導されることを見出し、限外ろ過、DNA精製基質、過酸化水素の添加などによる精製法を検討・開発してきた。DNAが分解している場合も、残存する高分子量DNAをゲルろ過法で回収することにより解析が可能となった。


    ○血液型遺伝子の解析
    PCR-SSCP  血痕や毛髪の血液型は凝集素解離試験などの血清学的方法で判定しているが、解析できる血液型がABO式血液型に限定される。
     そこでDNAレベルでの血液型の解析法について検討し、ABO式血液型では1回のPCR反応でO型遺伝子をOAとOGに、MN式血液型ではM型遺伝子をMGとMTに分類する方法を開発した (図1)。
     Se式血液型 (分泌型) についても同様に日本人に代表的な分泌型と非分泌型の簡便かつ確実な検出法を確立している。
     このように従来から知られている血液型をDNA解析により細かく分類し、個人識別や親子鑑定などの精度を向上させている。
    図1.1本鎖DNA高次構造多型 (SSCP) 分析法によるABO式およびMN式血液型遺伝子の電気泳動像

    ABO: 1, A/A; 2, B/B; 3, OA/OA; 4, OG/OG; 5, B/OG; 6, B/B
    MN: 1, MG/MG; 2, MG/N; 3, N/N; 4, MT/N; 5, MT/MT; 6, MG/MT


    ○DNA解析による性別判定法の検討

     中堀豊教授が発見したアメロゲニン遺伝子はXとY染色体の両方に存在するが、両者のイントロン領域の長さが異なり、1回のPCRで確実な性別判定ができる。この遺伝子解析を法医学資料の性別判定に応用してきた。現在はSTR(Short Tandem Repeat: Microsatellite多型)の検査キットにも導入され、国際的に法科学分析の対象遺伝子の1つとなっている。


    ○DNA鑑定、親子鑑定に関する総説 (日本語文献のみ)


  2. 生体試料中薬毒物の迅速分析法の開発 (担当:吉田 学)
    spetrum & chromatogram  中毒患者の血液、尿、胃内容中から原因薬毒物を正確かつ迅速に同定することは、法医学的立場のみならず救急医療現場などでも治療方針を決める上で必要不可欠である。
     そこで種々の薬毒物について、簡便迅速性を追及した検出法の開発を試みている。
     正確な同定が求められる薬毒物では、血液、尿、胃内容などの生体試料から有機溶媒で粗抽出するだけで直接サーモスプレイ質量分析計に導入する分析法について検討し、さらにコンピューター制御の半自動固相抽出装置やカラムスイッチング法を応用した分離カラムを接続して、分析の簡便性と精度の向上を図っている。
     現在は薬毒物の抽出・精製法について研究し、従来使用されてきた揮発性の疎水性有機溶媒の代わりに親水性有機溶媒を用い、低温処理あるいは塩処理で分離・回収する環境により優しい新技術について検討を進めている。

    図2.直接導入法による胃内容中dihydrocodeine (DHC) の分析例 (サーモスプレイ質量分析計マススペクトル、左図) およびカラムスイッチング法による尿中benzodiazepine系薬物の分析例 (右図)


    ○法医中毒学に関する総説 (日本語文献のみ)


  3. 鼻腔誘導脳波による脳死病態の解析 (担当:沖井 裕)→脳死
    ECG  平成9年度より臓器移植法が施行され脳死者からの臓器移植が開始したが、本教室では以前から脳死状態における脳幹機能の有無を調べるため、鼻腔から電極を挿入して測定する鼻腔誘導脳波について、本学脳神経外科学教室と共同で解析を進めている。
     「脳死」とは意思を司る高次中枢 (大脳皮質) のみならず、呼吸・心拍等の生命維持に不可欠な自律機能の中枢である脳幹を含めた全脳死をさす。
     通常は脳幹反射の消失や頭皮から誘導した脳波の平坦化で判定しているが、鼻腔誘導法では脳幹に極めて近い位置から脳波を導出できる。
     この方法で脳死と診断された患者20人のうち6人から図4に示すような徐波が導出され、完全な脳死ではない可能性が示唆された。
     この事実は脳死者からの臓器移植を即否定するものではないが、脳死の定義が全脳死である以上、脳死の病態についてさらに詳細な解析が必要であろう。
    図3.ある脳死者における鼻腔誘導脳波 (NR) と通常の脳波 (C3〜T4)


研究の展望
 法医学講座では、法医解剖や物体検査 (血痕検査など) の実務に関連したテーマについて基礎・応用研究を行っている。
 DNA鑑定や薬毒物分析の方法論の開発は実際の法医鑑定例に応用されてその実用性が確認されている。
 これらは現在の犯罪捜査に不可欠なものであり、今後さらに重要性を増す研究である。
 脳死の研究は法医学の死因論から派生したテーマであるが、法医学のみならず臨床医学的にも意義があり、今後の展開が内外から期待されている。

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