法医学講義 医師と法律 (医師法)
Laws on Medicine
目次
医師法:医師の身分と業務を規定
第1章 任務:医師は、医療及び
保健指導
により、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、国民の健康な生活を確保する。
第2章 免許:一定の要件を満たしているもののみが取得できる。
○積極的要件:国家試験合格 (第2条)
○消極的要件 (欠格事由):
絶対的欠格事由 (第3条、医師免許は与えない):未成年者、成年被後見人、被補佐人
相対的欠格事由 (第4条、与えないことがある):心身の障害、麻薬中毒、罰金以上の刑、その他医事に関し犯罪・不正のあった者
罰金刑以上を受けた場合の医師国家試験受験資格について:関西医大の例
○人身事故 (交通死亡事故)
裁判記録等を付けて学長が厚生労働省に嘆願書を提出
○スピード違反等、交通違反による罰金刑
平成11年より受験者の交通違反歴を学長の嘆願書をつけて厚生労働省に提出。
いずれの場合も受理され、合格点をとれば合格。
∴事故・違反時は学務課へすぐに報告しておかないと後々本人の不利益になるので注意!
○国試合格→医籍登録 (第6条)
○医師免許取消 (第7条):3条、4条に該当または医師の品位を損する行為。医道審議会で審査
第3章 試験
○臨床上必要な医学及び公衆衛生について、年少なくとも1回、厚生労働大臣が行う (第9、10条)。
大学 (文部科学省) が認定した卒業者を厚生労働省がチェック。
○不正受験者→合格しても無効 (第15条)
第3章の2 臨床研修
○
診療に従事しようとする医師
は卒後2年以上、医学部附属病院または厚生労働大臣の指定する病院で臨床研修を受けなければならない (第16条の2)
臨床研修を修了すると、その旨が医籍に登録され、臨床研修修了登録証が交付される。
臨床研修修了医師以外の者が診療所を開設する時は、開設地の都道府県知事等の許可を受けなければならない (医療法第7条関係)。
病院、診療所の管理は臨床研修修了医師が行う (医療法第10条関係)。
昭和21〜43年:インターン制度 (実地研修は不可欠とした)
卒後1年間臨床研修→その後国家試験受験
身分が不安定 (給料なし、学生でも医師でもない、責任もない)
日本のインターン制度は形だけのもの→20年で廃止
昭和44〜平成15年:臨床研修 (国家試験合格後、受けるように努める。義務なし)
第4章 業務
○業務独占 (第17条):医師以外は医業ができない。
→憲法の職業の自由と相反するが、「安全性」と「質の保持」のため
○名称独占 (第18条):医師以外は「医師」という名称を用いられない。
○応招義務 (第19条):正当な事由なく診療の求めを拒否できない (罰則なし、訓示規定)
●正当な事由:留守、病気
●不等な事由:診療費未払、時間外、往診拒否、専門外 (応急処置はどの専門でもできる)
判断の基準:代替性、救急性 (休日診療所、夜間診療所があれば紹介しても可)。
酩酊は判断困難
厚生省は「医師が来院した患者に対し、休日夜間診療所、休日夜間当番医などで診療を受けるよう指示することは、医師法第19条の規定に違反しないものと解される」と回答している (昭和49.4.16医収412)。
○診断書等書類の交付の求めを拒否できない (第19条2項):訓示規定
一般の診断書:法律上、様式の規定なし
死亡診断書:定まった様式
死亡診断書 (死体検案書)→
死体検案
(医師法で規程されている)
死亡診断書:診療継続中の病気による病死の場合。死亡診断しなくても作成可。
医師または歯科医師が作成可。
死体検案書:診療継続中の病気による病死の場合。死体検案しないと作成不可。
医師のみ作成可。
死産証書 (死胎検案書):医師または助産師が作成可。
(死産の届出に関する規程で規程されている)
死産証書:医師または助産師が立ち会った場合
死胎検案書:その他の場合 (助産師も作成可)。
ただし母の不明な死産児の場合は、医師の作成した死胎検案書を添附して警察官が発見地の市町村長に通知しなければならない。
仮死出産後死亡→出生届+死亡診断書
●代理人からの診断書等の要求には注意:遺族の同意書必要
守秘義務違反 (秘密漏泄罪、刑法第134条) に抵触。
●診断書交付拒否の正当事由:未診断、癌患者に病名を隠している場合
(ただし説明義務あり)
●虚偽の文書作成 (間違いとは別、遺族等の頼みで行う→必ず第3者に不利益を与える)
→責任:職責により重さが異なる (公務員は重い)
公文書偽造は刑法第157条の適用→罰則あり
私文書偽造は罰則なし (詐欺や公務所に提出するものは別:刑法第160条)
死亡診断書 (死体検案書) は公務所に提出する私文書。
○無診察治療等の禁止 (第20条)
自ら診断しないで治療したり、診断書や処方せんを発行してはならない。
(ただし受診後24時間以内に死亡した場合、死亡診断しなくても死亡診断書発行可)
○
異状死体等の届出義務 (第21条)
死体または妊娠4月以上の死産時の検案で異状→24時間以内に所轄警察署へ届出
(電話または書類で気軽に届け出ればよい)
●違反者→罰金 (ただし見逃した場合は罰せられない)
届出義務を知らないために届け出ない (法律の不知)→罰
「法の不知は宥恕 (ゆうじょ) せず」 (刑法第38条3号)
○処方せんの交付義務 (第22条):医薬分業の義務づけ→怠ると罰金
医師が薬剤の処方せんを渡す→薬局で処方せんの薬を買う。
placebo (偽薬) を投与する場合などは処方せんは不要。
○保健指導 (第23条)
○カルテの記載と保存 (第24条)
他の医師にわかるように書く。最後に診察した時から5年間保存。
○その他の条文:事務的なもの
<刑法>
医療行為は本質的には傷害行為
犯罪行為の定義 (三要素説)
構成要件該当性 (法律にあてはまるか):医療行為は刑法第204条の傷害に該当→犯罪
違法性:同意に基づく (限度あり)、公序良俗に反しない、法律で定めるものを除外
医療行為は刑法第35条により正当行為
有責性 (行為者にその行為の責任があるか):心神喪失の有無など。
○緊急避難 (第37条):(例) 海難事故で自分が助かるために他人を犠牲にする。
Cf) 正当防衛は正対不正、緊急避難は正対正
→患者の同意を得られない場合の医療行為の正当化。
「エホバの証人」の手術時の輸血拒否など
ただし現在では患者の救命よりも患者の意思をより尊重する傾向にある。
→輸血をしなくても究明できる治療法の開発が必要。
○秘密漏泄 (第134条、守秘義務):医師、薬剤師、弁護士等。
看護婦、検査技師などは除外。
カルテの置き忘れなど不作為の秘密漏泄も罰せられる。
(特にガン、性病、エイズなどは問題)
※平成17年7月19日に最高裁は「治療や検査中に違法薬物を検出した場合、これを捜査機関に通報するのは正当。守秘義務に違反しない」との初判断を示した。
○変死の届け出をしない (第192条):
届け出義務を知らなくても、変死者密葬の共犯となる。
○業務上過失致死傷 (第211条):交通事故、医療事故など
業務上とは広い意味で、素人の場合も含む。
過失:最高罰金20万円 (刑法では動機だけを問題としている)
→業務上過失になると罰金も高く、懲役刑も加わる。
<民法>
○診療:民法上は診療契約 (民法第632条、643条)
医師と患者の間の合意で契約したことになる。
契約内容:医療行為と医療費支払の等価交換
実際は健康保険を介するので複雑 (第537条、第三者のための契約)
開業医の場合
保健医 (開業医) ←(保健診察契約)→保険者 (国、共済、市町村)
医療給付↓↑診察要求
被保険者 (第三者)
勤務医の場合
[ 医 療 機 関 の 経 営 者 ]←(保健診察契約)→保険者 (国、共済、市町村)
医療給付↓↑診察要求 雇用↓↑使用人
被保険者 (第三者)←(保健診察契約)→勤務医
○インフォームド・コンセント
医師が患者に治療内容を説明し、十分理解した上で同意を得ること。
●ニュールンベルグ裁判 (1945-46):インフォームド・コンセントの起源
ナチスの行った人体実験に対する裁判
→ニュールンベルグ綱領 (1947):被験者の自発的承認が重要。
自由な選択の保障。承認に先立って説明が必要。
●ヘルシンキ宣言 (1964、世界医師会)、改訂第6版 (2000、エジンバラ)
「ヒトを対象とする医学研究に関わる医師、その他の関係者のための勧告」
前提:医学の進歩のためには人体実験もやむを得ない。
説明すべき内容=研究の目的、方法、予期される効果(利益)と危険性
「同意を拒む自由」の告知
「同意をいつでも取り消せる自由」の告知
圧力や強制の排除/自由意志による同意
同意は書面で→承諾書
同意能力のない場合は法的な代理人を
対象者の利益>科学上の利益、社会の利益
2000年の改訂では、クローン技術や遺伝子解読技術に対応して、適用範囲を研究者一般に拡張。
最先端治療 (人体実験の要素も含む)
例)生体肝移植など→医学倫理委員会 (大学病院などに常設) で審議後、患者の承諾を得る。
○承諾書 (手術等):
内容 (現状、予後、今後の措置の内容・理由・緊急性・危険性)に関してのみの承諾。
→賠償等の請求権の放棄ではない。
承諾の内容を勘違いしていた時→承諾内容は無効となる (第95条)。
○善管注意義務 (第644条):善良な管理者が取るべき義務:ベストを尽す。
○医療行為の不履行による損害賠償責任 (第415条):
遅れ、不可能、不完全履行の内、不完全履行が殆ど
○損害賠償の対象 (第416条):
1号:通常生ずべき損害 (自然因果関係が証明されるもの)に対して
2号:あらかじめ予見できたものについても請求可能
損害の種類 (1) 財産的損害 (有形的損害) →損害賠償
(2) 非財産的損害 (精神的損害) →慰謝料の請求
○不法行為の要件 (第709条):過失なければ責任なし (過失責任主義)
→反する概念 (危険責任説):
危険な施設を持っている人は過失がなくても事故に対する責任を持つ。
→医師もこれに相当
○人格権の擁護 (第710条):身体権、自由権、名誉権
身体権の最たるものが生命 (第711条) で近縁者 (広範囲、内縁の妻も含む) が請求できる。
○損害の償い方:本来はもとの状態に戻すべきだが、通常はお金で償う。
→お金で損害を評価できるか?
→慰謝料では裁判官は結論の金額のみを提示し、計算理由 (被害者の年齢・職業・資産・苦痛の程度、加害者の動機・態度・資産) の提示の必要はない。
●「期待権」:損害賠償における考え方
例) 交通事故:横道から出てきた車Aにわき見運転していた車Bが衝突。
Bの過失が大きいが、Aが横道から出ずに待っていると期待していた。
→Aの過失も多少ある→過失相殺 (相手の過失だけ自分の過失を軽減)
医時紛争における期待権
初診時に胆嚢癌を胆石と誤診し治療→症状が改善しない
→発見時には手遅れで死亡→訴訟
→誤診しなくとも死は免れない状態だった (と認められた)。
しかし患者は最善の診療を受けることを望んでおり、それを受ける期待権があり、
この場合それが侵害され、明らかに苦痛を受けた→慰謝料
<刑事責任と民事責任の相違>
○法的責任:民事責任→発生した損害の填補 (金銭による賠償)
刑事責任→発生した損害の填補と応報 (応報が主。予防を兼ねる)
○行為と損害との相当因果関係の規定
民事:高い蓋然性で考える=法的因果関係
刑事:確かな証拠が必要=事実的因果関係 (民事より厳格)
<その他、法医学に関係する法律>
○刑事訴訟法第129条、第168条:
司法解剖
第229条:
検視
○死体解剖保存法第2条:解剖の許可
厚生大臣が認知した学識経験者、医学に関する大学の解剖 (解剖学、病理学、法医学の教授・助教授)、監察医の解剖、刑事訴訟法第129条・第168条による解剖 (司法解剖)、食品衛生法第28条による解剖 (食中毒等の検査)、検疫法第13条による解剖 (伝染病等の検査)、その他保健所長の許可による解剖
第7条:解剖には遺族の承諾が必要 (
承諾解剖
)
例外:遺族がいない・遠隔地で連絡が取れない場合
監察医の解剖、司法解剖、食品衛生法・検疫法による解剖
第8条:監察医の検案・解剖 (
行政解剖
)
第11条:解剖で異状があれば所轄警察署長に届け出る。
第20条:死体取り扱い上の注意 (礼意を失わないように)
○死産の届出に関する規程
○
母体保護法(1996年に優生保護法から改名)
○角膜及び腎臓の移植に関する法律第3条:変死体からの摘出の禁止
↓(廃止)
○
臓器の移植に関する法律(臓器移植法)
○麻薬及び向精神薬取締法:モルヒネ、あへん、ヘロインなど
○覚せい剤取締法:メタンフェタミン、アンフェタミン
○サリン等による人身被害の防止に関する法律:サリン等毒ガスの製造・所持・発散を処罰
○化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律:化学兵器・特定物質 (マスタードガスなど) とその原料 (クロロサリン、クロロソマンなど) の製造・所持・発散を未遂を含めて処罰
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