よくある質問の回答 Frequently Asked Questions (FAQ)

●DNA鑑定による親子鑑定や物体検査を個人からの依頼でしていただけますか。
●1本の毛髪からDNA鑑定ができますか。
●火葬された遺骨からDNA鑑定ができますか。
●ペットのDNA鑑定ができますか。
●DNA鑑定で国籍を調べることができますか。
●本当の親子なのにABO式血液型があわないことがありますか。
●胎児の親子鑑定は可能でしょうか。
●親子鑑定の当事者 (例えば父と疑われている男性) が死亡している場合に鑑定は可能でしょうか。
●父と疑われている男性が2人いて、両者が実の兄弟の場合、どちらが父親か鑑定することは可能でしょうか。
●別のところで行った親子鑑定の結果に異義があります。再鑑定していただけるでしょうか。
●親子鑑定で1種類の遺伝形質 (血液型、DNA型) で否定されたのに、鑑定書では親子関係が肯定されていました。矛盾しているのではないでしょうか。
●交通事故で死亡したと思われる人なのに事故死でなく病死と判定されました。この結果をくつがえせるでしょうか。
●監察医になりたいのですが、どうすればなれるのでしょうか。
●検死官になりたいのですが、どうすればなれるのでしょうか。
●科学捜査研究所に就職するには、どうすればよいのでしょうか。
●医学部には死体洗いという報酬の高いアルバイトがあると聞きましたが本当でしょうか。
●英文の死亡診断書 (死体検案書) を依頼されました。どうすればよいのでしょうか。New!

●DNA鑑定による親子鑑定や物体検査を個人からの依頼でしていただけますか。

 本務多忙のため外部からの検査依頼は受け付けておりません。親子鑑定については日本法医学会指針に則って鑑定を行うSRLなどにご相談下さい。

●1本の毛髪からDNA鑑定ができますか。

 1本の髪の毛からのDNA鑑定は、理論上は可能ですが、実際はかなり困難です。
 髪の毛は、毛の部分 (毛幹) と毛根 (毛の付け根に付いている白くふくらんだ部分) とに分けられます。毛幹は角化変性し死滅した細胞が鱗状に重なったもので、生きている細胞がありません。従って毛幹には分解したDNAの残渣がごくわずかに存在する程度で、1本の毛幹を使ってDNA検査をすることは極めて困難です。また、黒毛はメラニンを含有し、このメラニンがDNA検査を妨害するので、さらに困難の度が増します (金髪や茶髪はメラニンの含有量が少ないために色が違って見えるのであって、メラニンを含むことに変わりはありません)。毛を染めていると、その染料がDNA鑑定を妨害する可能性が加わります。
 一方、毛根は生きている細胞が存在して、毛を作っているところです。頭に生えている毛髪を直接抜き取って得た毛根は、細胞が生きている状態なので、分解していない新鮮なDNAを含みます。従って確実なDNA鑑定が可能ですが、それでも1本の毛髪の毛根だとDNAの量が少ないため、十分な検査ができない可能性が残ります。
 それに対し、自然に脱落した毛 (抜け毛) の毛根は、抜ける前に毛根の細胞が死滅してしまっているため、DNAの分解が既に始まっており、DNA鑑定の資料にはあまり適しません。1本ではDNA鑑定は極めて困難、10本以上まとめても明瞭な検査結果を出すのが難しい場合があります。

●火葬された遺骨からDNA鑑定ができますか。

 骨のような硬い組織の中にも骨細胞、骨芽細胞などの生きた細胞があり、骨のメンテナンスを行っています。これらの細胞には当然DNAが含まれているので、他の細胞と同じようにDNAを抽出してDNA鑑定を行うことができます。
 ただし骨の中にはカルシウムが多く含まれています。カルシウム・イオンはDNA検査を妨害するため、骨から抽出したDNAを検査する場合にはEDTA (エチレンジアミン四酢酸) などのキレート剤を使ったりしてカルシウムを除去する必要があります。
 一方、火葬場で荼毘にふされると、遺体には800〜1200℃の熱が加わります。軟部組織は灰となってなくなり、骨も灰化しています。このような熱が加わると、DNAは細かく分断されます。

 左図は実験で細胞に200℃前後の熱を加えてDNAがどのように変化するかを調べた結果です。上部の20〜180というのは加熱した時間 (分) です。その数字の下にある白っぽいもやもやしたのは分解したDNAです。M (サイズ・マーカー) と比較すると、200℃で40分くらい加熱するとDNAは100 bp (bpはbase pairs、塩基対のことで、DNAの長さの単位) 以下に細断されています。また、時間がたつと共にDNAの量も少なくなっています。
 DNA鑑定するにはせめて200 bpくらいのDNAが残っていないと困難度が増すので、このように分解したDNAの検査は、100 %不可能とは言えませんが、通常のDNA鑑定を行うのが極めて困難となります。
 200℃でもこのように細断・減少していきますから、800〜1200℃で火葬されるとまともなDNAはほとんど残っていないと思われます。


●ペットのDNA鑑定ができますか。

 人間以外の動植物のDNA鑑定 (個人識別、親子鑑定) も理論上は人間と同じように可能です。ただしその生物の遺伝子 (DNA鑑定の対象となるもの) のデータ (塩基配列や遺伝子頻度など) が必要となりますが、当方では動植物のDNA鑑定の研究をしておりませんのでデータがありません。獣医学部など、専門のところへお問い合わせ下さい。

●DNA鑑定で国籍を調べることができますか。

 遺伝子の本体であるDNAは生まれてから (というより受精卵の時期から) 死ぬまで、一生の間変化することはありません (例外として癌細胞中の遺伝子が変化していることがあります)。
 国籍とは、あくまで人間社会の都合で決めたことで、遺伝子とは全く関係ありません。例えば、アメリカ生まれの白人が大人になって日本国籍を取得したとしても、その人のDNAが変化するわけではありません。要するに、DNA鑑定で国籍を調べることは不可能です。
 一方、DNA鑑定で多少なりとも推測できる可能性のあるのは、国籍でなく人種の方です。例えば血液型の一種であるKell式血液型は、欧米人ではKK型、Kk型、kk型の3種類の人に分けられますが、日本人 (国籍ではありません) ではほぼ全員がkk型なので、KK型あるいはKk型であれば日本人ではないと推測できます (kk型の人は日本人か欧米人か判断できません)。同様に、日本人で多型性 (個人差) がない血液型として、Lutheran式血液型などが知られています。
 逆に日本人 (というよりアジア人) で多型性があるものの代表がアルデヒド脱水素酵素ALDH2の型です。遺伝子に1型と2型の2種類があり、その組合せにより3種類の表現型、1/1型、1/2型、2/2型が存在します。アルデヒド脱水素酵素は体内でアルコールの分解により生じたアセトアルデヒトを酢酸に代謝する酵素ですが、酵素の機能は1/1型で強く、1/2型で弱く、2/2型では機能がほとんどありません。アセトアルデヒドはアルコールより毒性が強く、顔を赤くしたり、吐き気などの不快症状を起こす主原因物質です。そのため、1/1型の人は体内でアセトアルデヒドがすぐに分解されるのでお酒をいくらでも飲め、1/2型の人は多少は飲めますが、すぐに顔が赤くなります。2/2型の人はお酒をなめただけでも顔が真っ赤になって気分が悪くなり、ほとんど飲酒できません (いわゆる下戸です)。
 アジア人ではこの3種類の型の人がいるので、人によって酒が飲めたり飲めなかったりしますが、欧米人ではほぼ全員が1/1型で、お酒に強いということになります。ですから1/2型ないし2/2型の人はアジア人の血を引いていることが推測できます (1/1型の人はアジア人か欧米人か判断できません)。
 ALDH2の型は、お酒の飲み方でだいたい想像がつきますが、正確に鑑定するには遺伝子の検査を行います。下の図はPCR法という検査法で私と当教室のスタッフのALDH2の型を検査した例です。

 図中の1、2は、ALDH2の1型遺伝子と2型遺伝子の有無を検査した結果で、その下の電気泳動像の中に矢印で示す白いバンド (PCR法で増幅されたALDH2遺伝子断片) があるかないかで型の判定をします。例えば私とA氏、B氏、E氏は、1の列にはバンドがあって、2の列にはバンドがありませんから、1/1型で酒に強いタイプです。
 C氏、D氏は1の列にも2の列にもバンドがありますから1/2型で、すぐに顔が赤くなりますが、多少は飲めるタイプです。
 当教室に下戸 (2/2型) の人はいませんでした。
 上に記したように、DNA鑑定をするとその人の人種がある程度分かる場合もありますが、人種に特異的な型を持たない人ではいくら調べても人種を特定することはできません (例えばkk型でALDH2*1/1型の人はアジア人か欧米人か分かりません)。逆に、ハーフの人なら2つの人種両方の特徴を持っていることもあるでしょう。
 また、アジア人の中で、例えば日本人か中国人、韓国人かを識別することはまず不可能です。日本人の起源は、中国大陸北部と南部と、南洋の人の混血であると考えられています。ですから遺伝子上はこれらの人たちと明らかな違いはなく、DNA鑑定で識別することはまず不可能です。突然変異などでその人種が本来持たない型を生まれつき持っている人もありえます。
 2002年1月4日に、ヒトとチンパンジーの遺伝子の違いがわずか1.23%しかないことが報道されましたが、人種間でのDNAの違いは1%もありません。ですから人種の違いを明らかにしようと考えること自体が無意味なことかも知れません。
 (人種の判定については「5300年前の石器時代人、アイスマンのDNA解析」を参照して下さい)

●本当の親子なのにABO式血液型があわないことがありますか。

 父親と母親と子供のABO式血液型の組み合わせは以下の表の通りです。

両親と子のABO式血液型の組み合わせ
母親の血液型 父親の血液型
A B AB O
A A, O A, B, AB, O A, B, AB A, O
B A, B, AB, O B, O A, B, AB B, O
AB A, B, AB A, B, AB A, B, AB A, B
O A, O B, O A, B O
赤字は子がどの血液型になっても矛盾がない場合で、検査しても親子関係を肯定も否定もできません。

 しかし本当の親子のはずなのにこの表と異なる場合があります。その原因は以下の2つが考えられます。

 第1は誤判定です。血液型の中には亜型というのがあって、普通の血液型より検査時の反応が弱く、A型、B型なのにO型と判定される可能性があります。亜型を持つ人は極めてまれですが、その疑いがある場合にはABO式血液型の遺伝子を解析する必要があります。
 また、新生児の場合は十分な採血が難しいため、採血中に注射器の中で血が固まって誤った結果が出る危険があります。

 第2は突然変異です。両親の体内で精子や卵子がつくられる際に、遺伝子の組換 (突然変異の一種) が起こることがごくまれにあります (この突然変異は特に原因がなくても確率的に起こるものです)。
 例えば、一方の親がB型で、遺伝子型がBO型 (B遺伝子と0遺伝子から成る) の場合、以下のようにB遺伝子とO遺伝子の前半部と後半部が入れ代わる現象 (これを組換と言います) が起こることがあります。

正常なB遺伝子: (前半部:A遺伝子とほぼ同じ) (後半部:B遺伝子特有)
正常なO遺伝子: (前半部:O遺伝子特有) (後半部:A遺伝子とほぼ同じ)
 ↓
組換えで生じた遺伝子
1) (Bの前半部:A遺伝子とほぼ同じ) (Oの後半部:A遺伝子とほぼ同じ)
  →機能的にはA型の血液を作るA遺伝子と同じになる。
2) (Oの前半部:O遺伝子特有) (Bの後半部:B遺伝子特有)
  →特殊な遺伝子だが、機能的にはO遺伝子と同じ。

 上の1) の遺伝子が子に遺伝されると、この人 (B型) が持たないはずのA遺伝子が子に遺伝されることと同じになり、親子関係があわないという事態になります。
 この組換による血液型の変化については、大阪医科大学法医学教室の鈴木廣一教授が研究報告しています。

 その他、特殊な血液型としてcis-AB型というのがあります。通常のABO式血液型のAB型は、A遺伝子とB遺伝子から成り、それぞれがA型物質とB型物質 (血液型を決定する構造) を個別に作りますが、cis-AB型の人はcis-AB遺伝子というものを持ち、この遺伝子がひとつでA型物質とB型物質を同時に作り、常にAB型になります。cis-AB型の人が、cis-AB遺伝子とO遺伝子を持っていて、子供にO遺伝子が遺伝されれば、AB型の親からO型の子が生まれることもあり、一見矛盾が生じます。

cis-AB型の人とその配偶者の間に生まれる子供の血液型
配偶者 cis-AB型の人の遺伝子型 (表現型は常にAB)
cis-AB/A cis-AB/B cis-AB/O cis-AB/cis-AB
A AB, A AB*, B AB, A, O AB
B AB*, A AB, B AB, B, O AB
AB AB*, A AB*, B AB, A, B AB
O AB, A AB, B AB, O AB
赤字が通常のAB型の人の子としてあり得ない型です。
cis-AB型の遺伝子型は、遺伝子解析をしないとわかりません。
*印のAB型は、cis-AB遺伝子を含む場合と含まない場合があります。

 これら突然変異や特殊な遺伝子を持っている親子の場合も、ABO式血液型の遺伝子を解析しなければ、正確な親子鑑定ができません。

●胎児の親子鑑定は可能でしょうか。

 出生前の胎児の親子鑑定は、絨毛採取等をすれば不可能ではありませんが、流産の危険が生じますし、そもそも母体内の胎児の親子鑑定が、判明した父親が誰かによって中絶することを前提としている場合が多いので、倫理上問題がありお受けできません。
 中絶後の胎児の親子鑑定については、事情によっては通常の親子鑑定と同様に裁判所あるいは弁護士からの依頼で受け付ける場合があります。その場合、中絶する産婦人科医と相談して、掻爬した子宮内容物を冷凍保存しておく必要があります。

●親子鑑定の当事者 (例えば父と疑われている男性) が死亡している場合に鑑定は可能でしょうか。

 父子鑑定で子の母親が死亡している場合は、母親の検査はしなくても鑑定は可能です。ただし鑑定の精度が落ちます。
 肝心の父や子などの当事者が死亡している場合は、その人の体の一部が何らかの形で残っていれば、それを使ってDNA鑑定することが可能な場合があります。体の一部とは、例えばへその緒、遺髪、手術や解剖で採取した臓器・組織の一部などです。ただし保存状態や資料の量によっては十分な検査ができないかも知れません (「1本の毛髪からDNA鑑定ができますか」を参照して下さい)。
 本人の資料が使えない場合、その人の血縁者がいれば、血縁者の血液型やDNA型を検査して亡くなった人の型を推定し鑑定を行うことができます。ただし鑑定の精度はかなり低下します (否定例でも否定できなかったり、肯定例でも肯定確率が低く、断言できる鑑定結果が出ないことがあります)。

●父と疑われている男性が2人いて、両者が実の兄弟の場合、どちらが父親か鑑定することは可能でしょうか。

 まず、兄弟でどのくらいDNAの型が似るかというと、仮にあるDNA型について、兄弟の父親のDNA型を1-2型 (遺伝子1と2からなる型) 、母親の型を3-4型 (遺伝子3と4からなる型) とすると、その子供 (すなわち兄弟) のDNA型は、両親から1個ずつ遺伝子をもらうために1-3型、1-4型、2-3型、2-4型、の4種類のいずれかにしかなりません。
 ここで兄の型を1-3型とすると、弟の型は上記の4つの型のどれかで、1-3型であれば兄と全く同じ型、1-4型または2-3型であれば半分だけ兄と同じ型、2-4型であれば兄とは全く違う型、ということになります。
 要するに兄弟のDNA型をDNA鑑定で調べると、その兄弟の型が一致する確率は、最低で0% (遺伝子的には全くの別人) 、最高で100% (遺伝子的には同一人物といっていい) となります 。
 従って実の兄弟のいずれかが真の父親の場合に親子鑑定をすると、両者がともに肯定される可能性もあれば、真の父親でない方がうまく否定されることもあるでしょう。両者がともに肯定された場合、肯定確率の高低で単純にどちらが真の父かということを判断することはできません (確率は単なる目安でしかないため、確率が少しでも高い方が真の父であるとは言えません)。その場合にはさらに他のDNA型や血液型などの検査を追加して、どちらかが否定されるまで検査を続ける必要があります。
 なお、一卵性双生児の兄弟は遺伝子が全く同一なので、父親がどちらかということをDNA鑑定で判定することは不可能です (二卵性双生児は普通の兄弟と同じ)。

●別のところで行った親子鑑定の結果に異義があります。再鑑定していただけるでしょうか。

 きちんとした業者や法医学者が行った鑑定の結果は信頼できるものと考えます。ただし孤立否定 (1種類の血液型ないしDNA型のみで否定される場合) や肯定確率の低い肯定例の場合は、検査の追加により新たな事実が判明することもあるかも知れません。詳しい資料がいただければ検討してみます (次の質問の回答も参照して下さい)。

●親子鑑定で1種類の遺伝形質 (血液型、DNA型) で否定されたのに、鑑定書では親子関係が肯定されていました。矛盾しているのではないでしょうか。

 「親子で血液型があわないことがあるのか」という質問に対する回答のところに記載したように、遺伝子は親から子へ遺伝される際に突然変異 (組換) を起こし、親が持っている遺伝子の型と別の型になっていることが、ごくまれですがあります。
 そのため1種類の遺伝形質だけで否定された場合 (孤立否定の場合) は即親子関係を否定することはできず、他の遺伝形質の検査を続けます。複数の遺伝形質で否定的な結果が出た場合は、もともと確率の低い突然変異が、たまたま検査した遺伝形質の遺伝子複数に同時に起こっている可能性はまずゼロとみなせますので、親子関係を否定できます。
 しかし何種類の遺伝形質を調べても矛盾した結果が出ない場合は、突然変異の可能性が高いと考えられますので、否定されない遺伝形質の結果から得られた父権肯定確率の値を参考にして、親子関係を肯定します (否定結果が出た遺伝形質については突然変異の可能性が高いことを鑑定書に明記します)。
 本当に突然変異が起こったか否かの確認は困難です。突然変異が起こった遺伝子を細かく解析し、両親と比較して、突然変異の痕跡を検出できる場合もありますが、それでも100%の証明はできません。痕跡が見られない場合もあります。現在親子鑑定やDNA鑑定で主に分析されているSTR (マイクロサテライト) やミニサテライトなど、反復配列による多型の場合 (法医学講義「DNA鑑定」参照) は特に突然変異が起こりやすいと報告されています (それでも、まれですが)。
 「突然変異があるが親子は肯定される」という鑑定結果を受け、納得できない場合は、詳しい資料がいただければ妥当か否か検討してみますが、少なくとも日本国内の法医学者の鑑定結果でそのような記述があった場合は、まず間違いないと思います。

●交通事故で死亡したと思われる人なのに事故死でなく病死と判定されました。この結果をくつがえせるでしょうか。

 きちんと法医解剖がなされていれば、事故死と病死を取り違えることはまずありません。車両事故を起こしていても、事故直前に病死し、それが事故の原因となったこともよくあります。法医学者が解剖していない場合は、警察に解剖するよう求めてください。

●監察医になりたいのですが、どうすればなれるのでしょうか。

 まず、大学医学部 (医科大学) に入学して下さい。無事卒業できたら、医師国家試験を受けて医師免許を取って下さい。そしたら監察医務院か大学医学部 (医科大学) の法医学教室にポストを見つけて入局すれば、監察医業務を行うことができます。
 監察医制度が施行されているのは東京都区内、横浜市、名古屋市、大阪市、神戸市です。東京都には監察医務院があり、その他の地域には監察医事務所があります。監察医事務所で監察医業務を行う監察医の先生はたいていどこかの法医学教室の医師が非常勤で勤務していることが多いので、常勤の監察医になりたければ、東京の監察医務院 (文京区大塚にあります) へ就職して下さい。
 なお、監察医が行う解剖は行政解剖で、犯罪とは関係ない死体の解剖になります。犯罪死体の解剖 (司法解剖) は大学の法医学教室で行っています。法医学教室は全国に80校ある大学医学部 (医科大学) のすべてに存在します。注) 川崎医科大学では法医学教室が廃止されました。

●検死官になりたいのですが、どうすればなれるのでしょうか。

 こういう質問も将来に夢のある高校生から時々受けますが、実際に日本にある職種は検死官でなく検視官です。以前は刑事調査官と呼ばれていました。
 検視官というのは、各都道府県警察本部の刑事部に所属する役職で、殺人や傷害事件などの初動捜査を指揮する警察官です。犯罪事件が発生すると、発生現場を管轄する警察署が事件を担当します (重大事件の捜査本部なども通常その警察署に設けられます) が、事件発生時には警察本部から検視官がやってきて現場や死体をチェックし、捜査の方針を決めたり、司法解剖をするか否かなどについて判断します。階級は通常、警部〜警視クラスです。ですから検視官になりたければ警察に就職して出世する必要があります (医学部とは関係ありません)。
 ただし検視官になっても退職までその任につくわけではありません。たいていは2〜3年勤めるとどこかの警察署の署長に異動します。署長になっても2〜3年で別の警察署の署長に異動します (普通の刑事も同じです。ひとつの場所に長くいると地元との癒着が生じて良くないそうです)。
 ついでに警察の組織について概説すると (もっとも私はあまり興味がないので複雑な警察組織についてはおおざっぱにしか知りませんが)、下図のようになります。警視庁のことは良く分かりませんので、大阪府警とその他の地方の県警について説明します。

 大阪府警から説明しますと、警察本部のトップは本部長で、その下が刑事部や交通部などの部署に別れ、それぞれに長がいます。検視官や科学捜査研究所は刑事部の所属になります。大阪府警や神奈川県警は警視庁に次ぐ大きな警察組織なので、その本部長は警察庁 (警視庁でなく、国のお役所の方です。警視庁はいわば東京都警) のエリート (キャリア組) が赴任してきます。階級は警視監で、この上は警視総監と警察庁長官しかありません。
 しかし2年くらい勤めるとまた本庁に帰っていきますので、大阪府警本部長を長年勤めるということはありません。また、大阪府警くらいになると、本部長の下の刑事部長が地方の県警の本部長から (または本部長へ) 異動します (大阪府警刑事部長や県警本部長の階級は警視長)。これも2年くらいの任期です。これらの人はいわば国家公務員で、ひとつの都道府県に留まらず全国に異動します。ノンキャリアで刑事部長まで出世する人は稀です。

 それに対し、検視官や警察署長以下の警察官は完全な地方公務員で、原則として他の県へ異動することはなく、同じ県警 (府警) 内で異動します。これは大阪府警も地方の県警も同じです。大阪府警だと検視官は約8人いて、その中のトップは主席検視官と呼ばれます (階級は主席検視官が警視、他の検視官が警部) 。上に書きましたように主席検視官は2年くらいすると警察署長 (階級は警視〜警視正) などに異動します。
 各警察署は本部と同じように刑事課や交通課などに別れ、各課はさらにいくつかの係に別れ、課長や係長がいます。これは普通の会社と同じです。
 司法解剖には通常その事件を扱っている警察署の刑事課長 (警部〜警視) や強行犯係長 (警部補) が立ち会いますが、大事件だと検視官もやってきます。
 大阪の法医学の教授は年1回くらい大阪府警の刑事部長と顔をあわせます。地方の県警だと本部長が相手をするようですが、大阪府警の本部長が会うことはまずありませんので、我々は警視長程度の待遇でしょうか。
(補/警察官の階級:警視総監・警視監・警視長・警視正・警視・警部・警部補・巡査部長・巡査)

●科学捜査研究所に就職するには、どうすればよいのでしょうか。

 科学捜査研究所 (科捜研) の就職試験は、地方自治体により異なります。
 京都は府で採用し、科捜研に回すというやり方ですし、大阪は府警と府の人事院が採用試験を行います。従って科捜研の試験と府の上級試験の両方を受けなければなりません。
 要するに大阪の場合、府の上級試験に受かる位の学力が最低限必要です。いくら専門試験がよくても、大阪府で足切りされます。
 特に必要な資格は有りませんが、安定した地方公務員なので最近競争率が高く、国公立大学の大学院を出た人しか受からなくなっているとのことです。
 募集については、大阪府警の場合は一般に公募しますので、交番に採用のポスターが貼ってあったり、大阪府警のホームページに採用案内が詳細に記載されています。全国どこでも同様でしょう。警察官と違って毎年採用ということはなく不定期ですし、卒業年度に専門分野の採用があるかどうかもわかりません。ただ、企業からの転職組も多いので、就職したり大学に残って研究を続け、うまく採用時期まで待つのも一つの方法です。

 ちなみに大阪府警察本部刑事部科学捜査研究所 (これが正式名称です) の業務内容による研究室の種類と、そこに勤務するのに有利な大学の学部について説明すると、
  1. 人文科学研究室
     ポリグラフ検査 (いわゆる嘘発見機)、文書・偽造通貨等の鑑定 (偽札の鑑定など) を担当します。就職には、大学で文化系の心理学科、国文学科を専攻するのが有利のようです。
  2. 物理研究室
     交通事故の解析、出火原因の調査、拳銃の殺傷能力の鑑定、音声鑑定など。数学、物理学、電気関係の学科が有利です。理学部、工学部を問いません。
  3. 化学研究室
     毒物、麻薬、覚せい剤、繊維、微物などを鑑定。理学部、工学部でも化学系統の学科が有利。薬学部出身者もいます。
  4. 法医研究室 (大阪府警では生物研究室とDNA研究室に分室しました)
     血液型・毛・骨の鑑定、DNA鑑定など。現在は薬学部、農学部出身者が半々くらいです。農学部は獣医畜産学科が有利。
 その他の学部・学科の出身者も少数いますが、全般的に見ますと理科系のセクションが多いので、理科系の学部に進学するとよいでしょう。
 各都道府県警の科捜研の規模(職員の人数)はその地方の警察本部の規模により差がありますが、業務内容はほぼ同じです。

●医学部には死体洗いという報酬の高いアルバイトがあると聞きましたが本当でしょうか。

 嘘です。昔からある都市伝説の一種で、少なくとも私の知る限りではどこの大学にも数十年前からありません (それ以前は私は生まれていないので知りません)。
 詳細は「現代奇談」のサイトから、「真・都市伝説101夜」の中の「医療・人体にまつわる伝説」をお読み下さい。要するに、大江健三郎の処女作「死者の奢り」(1957年) という小説にこのアルバイトの記述があり、それが世間に広まったということです (鹿児島大学医学部法医学教室の小片教授より情報をいただきました。ありがとうございました)。
 法医解剖でなく、医学部の解剖学教室が医学生対象に行う系統解剖実習では、献体していただいた遺体を使用させていただいています。
 献体とは、生前から本人の意志で大学医学部の献体篤志会 (関西医科大学では白菊会という名称) に入会していただいた方がなくなられた後で (葬儀の後) ご遺族の承諾を得てご遺体を医学教育に使用させていただく制度です。
 ご遺体に対しては最大の敬意を払って対応いたしますので、洗ったり、ましてアルバイトの人間にまかせることはありません。
 なお、本学では献体していただいた方を京都の建仁寺で解剖体追悼法要を行って供養させていただいております。

●英文の死亡診断書 (死体検案書) を依頼されました。どうすればよいのでしょうか。

 外国人の方などでこういう依頼をされることがまれにあります。日本での死亡なので正式な死亡診断書は日本の書式で日本語で書けばよろしいのですが (ただし日付けは西暦にする)、どうしても必要な場合で、特定の国の書式で記載する必要がない場合は、日本の死亡診断書 (死体検案書) をもとに英文のCertificate of Death (Inquest Report of Fatal) を適当に作ればよいでしょう。こちらのページに作成例を掲載します。

◎特殊な質問はこちらまでPGP公開鍵
(回答は平日に行っていますが、当方の都合や質問の内容により回答が遅れることがあります。無署名など礼儀をわきまえないメールには回答いたしません)
鑑定の依頼と受付について