法医学講義 DNA鑑定
DNA Profiling
目次
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親子鑑定
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DNA鑑定スライド
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よくある質問の回答
<ご案内>
DNA鑑定の解説書「
DNA鑑定は万能か
−その可能性と限界に迫る
」 (DOJIN選書31, 2010. 1,680円) を発刊いたしました。本書ではDNA鑑定の内容や問題点を詳細に、かつわかりやすく解説しています。
<法医学領域におけるDNA鑑定>
個人識別、親子鑑定
性別判定
人獣鑑別
←
DNA多型
:対立遺伝子 (アリル、allele) の識別
←性染色体 (男:XY、女:XX) 遺伝子の識別
←種特異的遺伝子の識別
<血液型と比較したDNA鑑定の利点>
・試料を選ばない:血液のみならず全ての有核細胞 (細胞の痕跡含む) からDNAが抽出できる
・多型性 (個人差) が高い部位が多数あり情報量が多い
・性染色体遺伝子や種特異遺伝子の検出も容易→性別判定や人獣鑑別にも応用できる
<DNA鑑定の方法>
◎DNAの抽出
生物試料中のタンパク質を蛋白分解酵素で、脂質を界面活性剤で消化
→不純物をフェノール/クロロフォルム溶液などで除去
→精製したDNAをエタノールで結晶化して回収
QIAamp kitなど簡易抽出キットも市販され利用されている
◎検出、型判定法:PCR (polymerase chain reaction) 法が基本
PCR:試料DNA中の標的遺伝子を特異的に増幅
鋳型の試料DNA:95℃前後で熱変性 (1本鎖化)
→55〜65℃でプライマー結合 (アニーリング、annealing)
→72℃でTaq polymerase (耐熱性DNA複製酵素) で複製
このサイクルを20〜30回繰り返し、特定の遺伝子を選択的に増幅
Thermal Cycler (装置) を用いて反応は自動化され、短時間 (2〜3時間) で終了
※プライマー:塩基配列に相補的な短いDNA鎖で複製の起点となる。増幅する塩基配列の上流と下流に設定する
電気泳動法:増幅したPCR産物からDNA多型などを検出
ポリアクリルアミドゲル (中性または変性ゲル) やアガロースゲルを用い、分子ふるい効果でDNA断片長によりPCR産物を分離
→分離されたDNA断片は銀染色やエチヂウム・ブロマイド染色で検出
→泳動距離の差で多型を識別
※最近は、蛍光染色したプライマーを用いてPCR増幅し、キャピラリー電気泳動装置を用いて、electropherogramと呼ばれるグラフとして検出している
<DNA多型>
個人差 (多型) を示す遺伝子 (多型遺伝子) を検査
→型の異なる対立遺伝子 (アリル、allele、両親から1個ずつ遺伝) の型を検出→個人識別や親子鑑定
◎DNA多型の成因
挿入欠失多型 (反復配列多型)
DNAのある領域にある長さの塩基配列が挿入するか欠失するかによって生じる個人差
縦列反復配列多型:挿入欠失多型の1種。ある配列が繰り返し存在する領域で、反復回数の相違によって生じる多型
→アリルの種類が多く多型性が高いので、DNA多型検査の主流
ミニサテライト (反復配列長が十数〜数十塩基) とマイクロサテライト (2〜4塩基) に分類
※サテライト:反復配列領域の総称。塩基の組成の偏り (グアニン、シトシンが多い) のため他の部位のDNAと比重が異なり、濃度勾配遠心で分離されたところから命名
○反復配列多型の利点:PCR増幅産物を電気泳動するだけで断片長の差として個人差を検出できる
○反復配列多型の欠点:親から子へ遺伝される際に (生殖細胞が作られる際の減数分裂時に) 突然変異がまれに発生
→親子鑑定では注意が必要
ミニサテライト (minisatellite)
染色体の末端領域に偏って分布
1980年代末:数十塩基対の配列が反復するミニサテライトをサザン・ブロット法で検出
・DNA fingerprint:複数のミニサテライトを1個のプローブ (マルチローカス・プローブ) で同時に検出
→複雑なバンドパターンを示すが情報量が多い
・VNTR (variable number of tandem repeats):1種類のミニサテライトをシングルローカス・プローブで選択的に検出
→遺伝子ごとに遺伝様式、多型性を確認できる
1990年代初頭:PCR法で短い反復配列からなるミニサテライト (D1S80など) を検出→犯罪捜査に採用
○ミニサテライトの欠点:増幅産物全体の長さが長く、長い産物は増幅効率が悪い
→試料が微量で汚染・分解の可能性が高い法医学試料ではしばしば長いアリルが検出できない (アリル・ドロップアウト現象)
マイクロサテライト (microsatellite)/STR (short tandem repeats)
2塩基反復のマイクロサテライトは染色体の各部位に均一に多種類分布
→未知遺伝子の連鎖解析のマーカーとして研究で応用
DNA鑑定では4塩基反復のマイクロサテライト (STR) を中心に分析
←PCR増幅産物の3'末端塩基付加現象により、1塩基の長さの差のある二重の断片として検出されることがあり、2塩基反復では誤判定の危険が高まる
※Y染色体上のSTR (Y-STR):
男性しか検査できないが、1アリルしか検出されないので遺伝の有無が明確に判断でき、親子鑑定 (父−男児間) で有用
○STRの利点:上記、ミニサテライトの欠点を克服
単一塩基多型 (SNP、single nucleotide polymorphism)
1塩基単位での置換 (他の塩基への入れ替わり) や欠失で生じる個人差
血液型はそれぞれの遺伝子のSNPに基づく
○SNPの検出:PCR増幅後、塩基置換/欠失を検出する手順が必要
制限酵素切断による検出:PCR-RFLP (restriction fragment length polymorphism) 法
アリル特異的なプライマーによる検出:ASPA (allele-specific PCR amplification) 法
SNPに基づく立体構造の相違として検出:
SSCP (single strand conformational polymorphism) 法
DGGE (denaturing gradient gel electrophoresis) 法
TGGE (temperature gradient gel electrophoresis) 法
シークエンス解析:塩基配列を直接分析
○SNPの欠点:多型性 (個人差) が低い場合が多い
例) ABO式血液型遺伝子はA、B、Oの3種類のアリルしかない
例外) HLA遺伝子 (MHC) とミトコンドリアDNA
ただしHLAは極めて多種類のアリルがハプロタイプを形成し、法医学的目的で多型解析するには煩雑すぎる
→従来はキットでHLA-DQα型のみを調べる方法が犯罪捜査で使用
→キットの市販が終了し検査されなくなった
○SNPの利点:
反復配列多型と比較して突然変異が起きにくい
試料の状態が悪くても検出しやすい
血液型検査結果の確認や精密分析ができる
→補助的に犯罪捜査に利用される
◎ミトコンドリアDNA多型
○ミトコンドリア:
内膜の電子伝達系 (呼吸鎖) で、呼吸で摂取した酸素を用いて効率の良いエネルギー産生 (ATP産生) を行う細胞内小器官
細胞質内に2000個程度存在し、互いに連結して網目状のネットワークを形成
○ミトコンドリアDNA:
16,568塩基対の環状二重鎖DNA
1細胞あたり2000コピー程度存在→検出感度が高く、微量試料、汚染・分解した陳旧試料からも検出しやすい
核蛋白質で保護されていないため突然変異が5〜10倍起こりやすく、多型性が高い (特に高度変異領域:hypervariable region; HV)
母性遺伝 (細胞質遺伝):父 (精子) のミトコンドリアDNAは受精卵から排除
→親子鑑定で父子鑑定には使えないが、母子鑑定や母方をさかのぼった血縁の鑑定に利用可能
※Homoplasmy:1種類のミトコンドリアDNAしか存在しないこと
※Heteroplasmy:異なる型のミトコンドリアDNAが混在していること。特に毛髪試料でその割合が高い
ただし減数分裂時 (卵子が作られる課程) にミトコンドリア数は減少
→heteroplasmyが子に遺伝される確率は低く、2〜3世代でhomoplasmyに戻る
○ミトコンドリアDNAの型判定
高度多型性領域 HV-1 (塩基位置16024-16383)、HV-2 (57-372)、HV-3 (438-574) の塩基置換をシークエンス法で解析
ミトコンドリアDNA全域の塩基置換で分類されたハプログループを判定 (右表)
日本人はMとNのマクロハプログループに大別→それぞれD、Aなどのハプログループに分類→さらに多数のサブハプログループに分類
サブハプログループ未分類の型も多数あり、型の総数は無数
右表のH以下はヨーロッパ人に多く、日本人にはほとんどいない
◎DNA多型の有用性:多型遺伝子ごとに各指標で評価 (いずれも1に近いほど多型性が高い)
平均排除率 (MEC、mean exclusion chance:親子鑑定で父でない男性が否定される確率)
異型接合度 (HZ、heterozygosity:ヘテロ接合体遺伝子型になる頻度)
識別能 (PD、power of discrimination:二者が異なる遺伝子型になる確率)
多型情報含有値 (PIC、polymorphic information contents:子のアリルの由来を判定できる確率)
<性別判定>
PCR法でXY相同アメロゲニン遺伝子を検出して行う
アメロゲニン:歯のエナメル質を形成するタンパク質
アメロゲニン遺伝子:X染色体、Y染色体の両方に存在 (塩基配列の相違あり)→1回のPCRで同時にXYの有無を判定
・男性:XとY遺伝子が検出
・女性:X遺伝子のみ検出
・分析失敗:何も検出されない←試料の状態が悪いことが多い法医鑑定では重要
現在ではSTR分析キットに組み込まれている
<人獣鑑別>
ヒト特異遺伝子の検出→ヒトであるか否かを判定
広く動物種に保存されている遺伝子を分析:種による塩基配列の差から動物種を特定できる
例) ribosomal RNA遺伝子:ヒト第13〜15、21、22染色体短腕上の反復配列 (多型性なし)
<法医学試料 (血痕、精液斑、死体組織) の性状>
微量→PCR増幅できるので基本的に問題はない
試料の汚染 contamination
○生体内由来物質
・ヘモグロビン (ヘム) と血清アルブミンの結合:メトヘムアルブミン
→DNAとともに抽出される
→活性の高いヘム鉄がPCRを阻害
・骨中のカルシウム:CRを阻害→キレート剤によるカルシウム除去が不可欠
○試料周囲の化学物質:血痕が付着していた物体由来の化学物質など
・デニム (ブルージーンズ) 生地の天然染料インディゴ
・植物性物質 (畳、茶封筒、木片) 由来の多糖類
試料の分解 degradation
化学物質や自然界に豊富に存在するDNaseにより時間とともに分解
腹腔内臓器のDNAは腸内細菌の繁殖や組織内酵素により分解が早い
→筋肉から抽出した方がよい
分解DNA:PCRの鋳型とならない。不完全に増幅。非特異的に増幅
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